医学生の姿勢・肩こり対策 ― 1日の67%は、そもそも環境を選べない

身体と心のパフォーマンス向上

姿勢は意識では直らない、環境で変えるべきだ ―― これは実感として正しいと思います。ただ、自分の1日を時間割で並べてみて、そこに条件が付くことが分かりました。環境を選べる時間帯と、まったく選べない時間帯があるのです。

私の学期は実習が145コマ、全体の67%を占めます。実習室の椅子も机の高さも、こちらでは決められません。「良い椅子を買う」型の対策が、1日の3分の2に対して無効ということです。

そこで、時間帯を選べる/選べないで仕分けて、それぞれに別の手を当てることにしました。この記事はその整理の記録です。

環境を選べる時間と、選べない時間に分ける

まず仕分けです。私の週で最も長い日は、8:30に始まって19:30に終わります。拘束11時間。その中身を分けるとこうなります。

時間帯環境打てる手
講義(90分)選べない座る位置を選ぶ/こまめに座り直す
空きコマ(6時間15分)選べる場所も姿勢も自由。ここが本丸
顕微鏡の実習選べない開始前に椅子の高さだけ合わせる
立位の実習選べない重心の移し替え/靴
帰宅後選べる机まわりを整える/短いケア

この表を作って気づいたことがあります。姿勢の記事に書かれている対策のほとんどは、「選べる」行にしか当てはまりません。そして私の1日で「選べる」時間は、思っていたより限られていました。

ただ逆に言えば、選べない時間帯には「その場でできる小さな一手」だけを用意すればいいと割り切れます。理想の環境を作ろうとして無理なものは、最初から諦める。ここを分けたのが一番効きました。

猫背になっている人のイラスト

顕微鏡は「開始前」しか調整できない

組織学の実習は顕微鏡を使うので、座位です。ただ、机に向かって勉強する座位とは負荷のかかり方が違います。

決定的な違いは、頭の位置が接眼レンズに固定されることです。机での勉強なら、無意識に背中を反らせたり、もたれかかったりして小さく動いています。顕微鏡ではその逃げ道がありません。目の位置がずれると見えなくなるからです。

結果として、首の後ろと肩の上に負荷が集中します。しかも姿勢を直そうとすると視野が外れるので、実習中に姿勢を直すという発想自体が出てきません。

だから対策は1つだけに絞りました。始まる前に椅子の高さを合わせる。

当たり前に見えますが、実習が始まると標本に集中してしまい、途中で直す発想が出ません。調整できるのは開始前の数十秒だけだと考えて、席に着いたらまず高さを見るようにしています。合わせる基準は「背筋を伸ばした状態で、目が接眼レンズの高さに来るか」です。体を前に倒して合わせているなら、椅子が低すぎます。


一番長く座るのは、授業ではなく6時間15分の空きコマ

ここが、時間割を数えて一番はっきりした事実です。その日で最も長く座っているのは、授業中ではありませんでした。

私の週で最も長い日には、10:00から16:15まで6時間15分の空きがあります。ここを自習に使うので、講義90分の4倍以上の時間、座っていることになります。

姿勢対策を「授業中の座り方」だけで考えていたのは、量を見ていなかったということです。しかもこの6時間15分は、前述の表で唯一「選べる」行にあたります。改善の余地が一番大きいのに、一番手を入れていませんでした。

今やっているのは3つです。

  • 50分ごとに一度立つ ―― タイマーではなく、作業の区切りで席を離れる
  • 途中で場所を変える ―― 同じ椅子に6時間座らない。移動自体が休憩になる
  • 後半は立ってできる作業に回す ―― 暗記の確認など、座らなくてよいものを後ろに置く

3つ目が特に効きました。姿勢を良くする工夫より、座っている総時間そのものを減らすほうが確実です。作業の順番を変えるだけなので、我慢も要りません。

背伸びをしている人のイラスト

スケッチの姿勢は、紙の位置で決まる

組織学の実習には、見えたものを描く作業があります。ここでも姿勢の問題が出ますが、原因は椅子ではなく紙の位置でした。

顕微鏡をのぞきながら描くので、紙は横か手前に置くことになります。このとき紙が体の正面から外れていると、描いている間ずっと体をひねった状態になります。顕微鏡で首が固定され、そのうえ体幹がねじれる。負荷が重なります。

気づいてから変えたのは単純なことです。顕微鏡から目を離すときは、紙を体の正面に持ってくる。描き終わったらまた戻す。動かすのは紙のほうで、体は動かさない。

ついでに分かったのが、下描きを先に済ませておくと、実習中にこの往復が減ることです。予習の段階で構図と輪郭を用意しておけば、実習では確認と修正だけになります。姿勢の話であると同時に、時間の話でもありました。


立ちっぱなしの実習で、姿勢を保てる時間には限りがある

解剖の実習は立位です。1回90分、これが学期を通して繰り返されます。

ここで最初に思ったのは「良い姿勢で立ち続けよう」でした。これは無理でした。90分間、意識して姿勢を保てる人はいません。作業に集中した時点で意識は姿勢から離れます。

今は考え方を変えて、同じ姿勢で固定しないことを目標にしています。良い姿勢を保つのではなく、悪い姿勢を長く続けない。

  • 体重を片脚ずつに移し替える(その場で静かにできる)
  • 説明を聞いている間にかかとを上げ下げする
  • 区切りに紐づける ―― 時間で管理せず、作業の切れ目に動作をくっつける

3つ目が要点です。時間で管理しようとすると、集中しているときほど忘れます。もともとある区切り(標本の交換、説明の切れ目)に動作を紐づけると、意識しなくても実行されました。

肩こりに悩む人のイラスト


荷物が姿勢を決めている ― 朝から夜まで同じかばんで動く日

見落としていた要因がもう一つありました。かばんです。

8:30に家を出て19:30まで戻らない日は、その日に使うものを全部持ち歩くことになります。講義の資料、実習の資料、昼の空きコマで使う教材、着替え。片方の肩に掛けていた時期は、夕方には左右差がはっきり出ていました。

効いた対策は2つです。

やったこと狙い
両肩で背負う形にした左右差を作らない。長時間なので効く
紙の資料を減らした重量そのものを落とす。机の上も散らからない

2つ目には副次的な効果がありました。持ち物が減ると、机の上に出るものも減ります。空きコマで作業するとき、机に3種類の教材が出ていると、詰まったときに別のものへ手が伸びます。出ているものが1つなら、それが起きません。

姿勢の話から始めたつもりが、持ち物・机の上・集中の続き方まで一続きだったというのは意外でした。11時間を同じ荷物で動く日があると分かってから、そもそも何を持つかを見直すようになりました。


冬は、姿勢が勝手に縮む

高緯度に住んでいるので、季節の要因も入ります。寒いと、肩が上がって前に入ります。これは意識の問題ではなく、寒さに対する自然な反応です。

私の住む場所では、昼の長さが9月1日の13時間57分から、冬至には6時間43分まで縮みます。半分以下です。そして授業日78日のうち27日が、暗い中で建物に出入りする日になります。

この時期にやっているのは、姿勢を直すことではなく寒さの条件そのものを外すことです。屋内で上着を脱げる状態にしておく、移動時に首元を冷やさない、室温の下限を決めておく。寒くない状態を作れば、肩は勝手に下ります。

ここでも考え方は同じでした。意識で保とうとせず、そうならざるを得ない条件のほうを外す。姿勢について私が学んだのは、結局この一点だったかもしれません。

環境で解ける部分と、解けない部分

正直に書いておくと、ここまでの工夫で全部が解決したわけではありません。そして解決しなかった分のいくつかは、姿勢の問題ではありませんでした。

典型は、その週の拘束が重いときです。私の週の拘束は12.8時間から23.2時間まで1.8倍振れます。23時間の週は、単純に座っている時間も立っている時間も長い。ここで椅子や姿勢を疑っても、原因が違います。

だから今は、こりや張りが強い日にまずその週の拘束時間と睡眠を確認します。睡眠は週の合計で見ていて、週53時間(1日あたり7.6時間)が基準です。ここが足りていないときは、姿勢を直しても戻りませんでした。

そしてもう一つ線を引いています。数日休んでも引かない痛みや、しびれを伴うものは、姿勢の工夫で様子を見る対象ではないと決めています。そのときは早めに医療機関に相談する、という基準を先に置いてあります。

❓ よくある質問

Q1. 良い椅子を買う価値はありますか?
私の場合、1日の3分の2は椅子を選べない場所にいるので、優先度は高くありませんでした。まず自分の1日を仕分けて、「選べる」時間がどれくらいあるかを数えるのが先だと思います。そこが長い人なら、投資する価値は大きいはずです。
Q2. 実習中に動くと迷惑になりませんか?
重心を移すのも、かかとの上げ下げも、その場で静かにできる範囲です。私が避けているのは、大きく体を伸ばす動作を人の作業の近くでやることだけです。作業の区切りに合わせれば、ほとんど問題になりません。
Q3. ストレッチはいつやるのが効きますか?
私は座位から立位へ移る直前に短く入れています。座って前傾を続けた直後にそのまま立ち仕事に入ると、その日の終わりに腰へまとめて来るからです。1分もかからないので、忘れた日との差がはっきり出ます。
Q4. 姿勢を意識し続けるコツはありますか?
意識し続けるのは諦めました。90分の作業中に姿勢を保ち続けるのは、私には無理でした。代わりに、もともとある区切りに動作を紐づけています。意識ではなく手順として組み込めば、集中していても実行されます。

※ 見出しをタップすると続きが開きます。

まとめ

  • 1日を環境を選べる時間/選べない時間に仕分ける。私の場合、実習145コマ(67%)は選べない
  • 顕微鏡は頭の位置が固定されるので、調整できるのは開始前の椅子の高さだけ
  • 最も長く座っているのは講義ではなく6時間15分の空きコマ。ここが唯一「選べる」枠
  • 姿勢を良くするより座っている総時間を減らすほうが確実(後半を立ち作業に回す)
  • スケッチは紙を体の正面に持ってくる。動かすのは紙で、体はひねらない
  • 立位は良い姿勢を保つのではなく、同じ姿勢で固定しない。区切りに動作を紐づける
  • こりが続くときは、まずその週の拘束時間と睡眠を疑う

姿勢が崩れるのを、長いこと自分の意識の問題だと思っていました。環境の問題だと分かってからも、今度は「環境を整えられない」ところで止まっていました。

時間割で仕分けたら、整えられる時間と整えられない時間がはっきり分かれました。整えられない場所には小さな一手だけ用意して、整えられる場所に力を入れる。全部をなんとかしようとするのをやめたら、かえって楽になりました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました