英語で書いた実験レポートが、たった3行のコメントと一緒に返ってきました。Evaluation part is superficial. Improvements are missing. Application in medicine should be specified.──訳すと「評価の節が表面的。改善案が書かれていない。医学への応用は具体的に」。判定は不合格。この授業では、1週間以内に出し直して合格しないと、学期末の試験を受けられません。
最初に思ったのは「書いたのに」でした。改善案も書いた。医学への応用も書いた。けれど書き直しの過程で、手元の版を並べて比べてみると、先生の3行は「書いていない」ではなく「書いてあるが、何も言っていない」という指摘だったことが分かりました。この記事では、授業がすべて英語で行われる医学部で、物理の実習レポートを毎週1本ずつ出している私が、不合格の版と出し直した版を実物で比べながら、Evaluation と Application に何を書けば「中身がある」と読まれるのかを整理します。英語のレポートを課される理系の授業なら、学部を問わずそのまま使える型です。
なお、記事に出てくる実験は医学部の物理の実習ですが、物理や医学の予備知識がなくても読めるように、それぞれの実験が何をするものなのかを、出てくる場所で短く説明しています。英文の引用にはすべて日本語訳を付けました。
🗂 目次
📌 この記事でわかること
- 「superficial」は分量不足ではなく、問題の大きさが数字で書かれていないという意味だった
- Evaluation は1項目を「問題(数字つき)→ なぜ効くか → Next time we should …」の3文で組む
- Application は「MRI」で止めずに、部位・病名・数値・自分の実験との対応まで降りる
- 載せる数字は表の値か、足し算・引き算1回まで。口頭で聞かれて表を指させないものは削る
1. 返ってきた3行と、レポートの仕組み
まず、この授業がどう回っているかを説明しておきます。私の通う医学部は授業がすべて英語で、科目のひとつに「医学物理」があります。その実習は、毎週1回、次の流れで進みます。
- ① 実習の日:2人1組になり、その回の装置を使って測定する。テーマは毎回変わる(電気泳動、磁場、心電図……)
- ② レポート:先生が用意した Excel のひな形(テンプレート)に、測定値と文章を書き込んで提出する。ひな形には、測定値を書き込む表、比べるための理論値や文献値、末尾の参考文献の一覧が、最初から書き込まれている
- ③ 判定:レポートは合格か不合格かだけで、点数は付かない。不合格なら、実習日から1週間以内に出し直す
- ④ 発表と質疑:レポートとは別に、同じ組の2人で自分たちのレポートの内容を短く発表し、先生から口頭で1〜2問、質問を受ける。点数(10点満点)が付くのはこちら
レポートは1本でも合格にならないと、学期末の試験を受けられません。だから1本の不合格が、そのまま単位の問題になります。
レポートの文章を書く欄は、Hypothesis(仮説)と、Results and Conclusions の4節です。4節の中身は次のとおりで、ひな形にはそれぞれの見出しの下に、斜体で短い指示文が付いています。
| 節 | ひな形の指示(要旨) |
|---|---|
| 1. Analysis of the results | データを論理的に分析し、理論値・文献値など他の情報源と比べる |
| 2. Evaluation of the experiment | 実験の弱点と限界を評価し、実際的な改善案を出す |
| 3. Conclusions | 研究課題に対する結論を書き、仮説が確かめられたか、そうでないならなぜかを分析する |
| 4. Application in medicine | 医学の例を1つ、文脈の中で簡潔に。1段落以内 |
このうちAnalysisは「測った数字が何を意味するか」、Evaluationは「この実験のどこが弱かったか、次にどう直すか」、Applicationは「この物理が医療のどこで使われているか」を書く場所です。日本の理科のレポートでいう「考察」を、4つの役割に分けたものだと思ってもらえれば近いです。
これまでに先生から返ってきたコメントは、次の2つです。
── 磁場の実習 / 不合格
── 電気泳動の実習 / Analysis を書き直して合格
2つめの「Fixed.(修正済み)」は、指摘を受けて私が Analysis を書き直したあとに付いたもので、「直ったので合格」という意味だと受け取っています。
2本とも Improvements are missing が入っています。正直に言うと、電気泳動のほうは Evaluation に書いた2つの問題のうち、1つにしか改善案を付けていなかったので、これは文字どおりの指摘でした。ところが磁場のレポートでは、2つの問題の両方に「Next time we should …(次回は〜すべきだ)」という形で改善案を書いていました。書いてあるのに missing と言われる。ここが今回の出発点です。

2. 記事に出てくる3つの実験と、レポートに書いたこと
ここから先の話には、3つの実験が出てきます。どれも医学部の物理の実習で、毎週1つの装置を使って測定し、1本のレポートを出したものです。物理を知らなくても後の章が読めるように、それぞれ何をする実験で、私がレポートの各節に何を書いたのかを、実習の順に先に並べておきます。書き方の良し悪しは3章以降で扱います。
💡 実験①:電気泳動 ― 電気をかけると、イオンはどれだけ動くか
水に溶けた金属のイオンは電気を帯びているので、電圧をかけると反対の極に向かって動きます。実習では、塩水で濡らした濾紙の上に銅のイオンと鉄のイオンをそれぞれ置き、約150ボルトの電圧を10分かけました。そのあと紙を乾かして試薬で色を付け、紙に引いた10本の線に沿って、色の付いた範囲が何 mm 動いたかを測ります。
そこから求めるのが移動度──「1ボルトあたり、どれだけの速さで動くか」というイオンの動きやすさです。式は 移動度 = 動いた距離 × 電極の間の距離 ÷ 時間 ÷ 電圧。鉄のイオンは電気を3つ分、銅のイオンは2つ分帯びているので、鉄のほうが強く引っぱられるはずだ、というのが出発点でした。
| レポートの節 | 私が書いたこと |
|---|---|
| 仮説 | 同じ電圧なら、鉄のイオンのほうが銅のイオンより動きやすい。帯びている電気が大きいから |
| 結果 | 移動度は銅が 1.23×10⁻⁷、鉄が 2.28×10⁻⁷ m²/(s·V)。10本の線すべてで鉄のほうが遠くまで進んだ。一方、ひな形に書かれていた文献値は銅 4.6×10⁻⁸、鉄 6.1×10⁻⁸ で、私たちの値は2.7倍と3.7倍も大きかった |
| Analysis | 2つとも同じ向きに大きすぎるので、原因は文献値ではなく方法の側にある。文献値は液体の中のイオンの値だが、私たちは濡れた紙の上で測った。紙の上では液体そのものも流れるので、その分だけイオンが余計に進む ※先生のコメントを受けて書き直した後の版 |
| Evaluation | ①10本の線で進んだ距離がそろわない(銅は中央の線で約56 mm、端の線では26 mm)。動いた前線が曲がっていた ②10分の間に電圧が150 Vから130 Vに下がった → 次は150 Vに保つよう調整する。改善案を付けたのは②だけだった |
| Conclusions | 「鉄のほうが動きやすい」という向きは確かめられた。ただし鉄と銅の比は1.85で、帯びた電気の比の1.5より大きく、値の大きさは正しくない |
| Application | PCRのあとのゲル電気泳動。増やしたDNAを電気で動かし、長さで分けて、ウイルスや細菌の遺伝子があるか、遺伝子が正常な長さかを調べる |
| 返ってきたコメント | Analysis is not complete. Fixed. Improvements are missing.(分析が不完全。修正済み。改善案がない)→ 合格 |
💡 実験②:磁場 ― 2つのコイルの間に、磁場が一定の場所はどれだけあるか
電線をぐるぐる巻いた輪(コイル)に電流を流すと、まわりに磁場ができます。同じコイルを2つ、コイルの半径と同じ距離だけ離して向かい合わせに置くと、2つの間に磁場の強さがほぼ一定になる範囲ができます。この並べ方を「ヘルムホルツコイル」と呼びます。この範囲が「一様な領域」で、その範囲がどれくらいの幅なのかが、この実験の見どころです。
実際の作業は、目盛りの付いたレールの上に2つのコイルを置き、磁場センサーをレールに沿って4 cm ずつ動かしながら、0 cm から 56 cm まで15か所で磁場の強さを読む、というものです。コイルの中心はレールの目盛りでおよそ 28〜29 cm の位置にありました。
単位の µT(マイクロテスラ)は磁場の強さの単位で、地球の磁場がおよそ数十 µT です。中心の値は式から 1348.8 µT になるはずでした。計算すると、強さがほぼ一定と言えるのは中心から前後 3 cm ほどしかありません。
| レポートの節 | 私が書いたこと |
|---|---|
| 仮説 | 2つのコイルの間の中心付近では、磁場はほぼ同じ強さになる。中心の値は理論値の 1349 µT に近い |
| 結果 | 最大は 28 cm の位置で 1280 µT。理論値との差は 5.1%。中心から離れると急に弱まり、20 cm と 40 cm では最大より 25% と 43% 低かった |
| Analysis | 理論値より約 69 µT 弱い。理由は、最大を測った 28 cm がコイルの本当の中心から少しずれていて、山の頂上を測れていなかったこと |
| Evaluation | ①4 cm 刻みが粗く、一様な領域に2点しか入らなかった ②各点を1回しか測っていない ③センサーの位置を目で合わせていた ※出し直した版。提出した版は①と②の2つだけ |
| Conclusions | 仮説の1つめ(中心付近でほぼ同じ)は確かめられた。2つめ(理論値に近い)は一部だけ確かめられた ※出し直した版。提出した版は1つめにしか答えていなかった |
| Application | 関節のMRI。手首や肘がなぜ写りにくいことがあるか ※出し直した版。提出した版は「MRIは一様な磁場が必要」という一般論だった |
| 返ってきたコメント | Evaluation part is superficial. Improvements are missing. Application in medicine should be specified. → 不合格、出し直し |
💡 実験③:心電図 ― 3方向から測った心臓の電気から、電気の向きを求める
心臓は、拍動のたびに筋肉に電気が流れます。この電気を体の表面から記録したものが心電図です。実習では右手・左手・左足に電極を貼り、2か所ずつを組にして3通りの記録を取りました。右手と左手の組が誘導I、右手と左足が誘導II、左手と左足が誘導IIIです。同じ心臓の電気を、3つの違う方向から眺めた記録だと考えてください。
それぞれの記録で、拍動ごとに一番高く尖る波(R波)の高さを10拍ぶん読み、平均を出します。3方向の高さを三角形の図に描くと、心臓の電気が全体としてどちらの向きに流れているかが分かります。この向きを「QRS軸」と呼び、健康な人ではおよそ −30°〜+90°(体の左下向き)の範囲に収まります。
| レポートの節 | 私が書いたこと |
|---|---|
| 仮説 | ①3つの誘導でR波の高さは違う ②誘導IIがいちばん高い ③電気の向き(QRS軸)は正常範囲の −30〜+90° に入る |
| 結果 | R波の高さの平均は誘導Iが 1.09 mV、IIが 1.36 mV、IIIが 1.25 mV(mV はミリボルト、電圧の単位)。三角形の作図から、電気の向きは 54°、大きさは 1.86 mV |
| Analysis | 向きの 54° は正常範囲。誘導IIが最も高いのは、誘導IIの向き(60°)が 54° に最も近いから。ただし大きさは、3つの誘導を同時に記録していないので向きほど信頼できない |
| Evaluation | ①3つの誘導を順番に記録したので、同じ拍動を比べていない ②10拍しか使っていない(誘導IIIでは 1.11〜1.42 mV とばらついた)③腕が動くと筋肉の電気が混ざる。それぞれに改善案 |
| Conclusions | 仮説の3つとも確かめられた。向きは最もはっきりした結果、大きさは信頼性が低い |
| Application | 病院で同じ3本の記録から電気の向きを読み、左右どちらにずれているかで心臓の病気の手がかりにすること |
こうして並べると、どの実験でも仮説・結果・各節の中身はひととおりそろっていました。それでも磁場のレポートは不合格になった。何が足りなかったのかを、ここから順に見ていきます。
3. 量を増やしても直らなかった
実は、磁場のレポートは提出前に一度「長すぎる」と自分で判断して削っています。最初の下書きは英文で約7,000文字・20段落・参考URL 3本。前の週に出した電気泳動のレポートが約2,700文字・8段落だったので、その3倍近くありました。読み返して、さすがにこれは先生も読まないと思い、約2,900文字・10段落・URL 1本まで削って提出しました。そして返ってきたのが superficial です。
ここで「削りすぎたのか」と考えて、出し直しの版では Evaluation を一気に5項目に増やしました。時間とともに電流がずれていくこと、地球そのものの磁場の影響、センサーの位置合わせ、測定間隔、繰り返し測定。さらに Application には、論文を1本引いて数値を並べました。けれど書き上げたものを見直すと、今度はひな形の表からは確かめられない数字──コイルの式から自分で出した値や、論文の測定値──が混じっていました。1章で書いた発表のあとの質疑で「それはどこから?」と聞かれたら、表を指して答えられません。最終的に出し直した版の Evaluation は3項目です。最初の版の2項目から、1項目しか増えていません。
つまり、合否を分けたのは項目の数でも文字数でもありませんでした。同じ項目を、どこまで具体的に書いたかです。量の調整で直そうとして2往復したのが、今回いちばんの遠回りでした。
| 版 | Evaluation の項目数 | Application の中身 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 最初の下書き | —(全体で約7,000文字) | — | 提出前に自分で削った |
| 提出した版 | 2 | MRI は一様な磁場が要る、という一般論 | 不合格(superficial) |
| 出し直しの途中 | 5 | 論文を引いて数値を並べた | 表で裏付けられない項目を外した |
| 出し直した版 | 3 | 関節のMRIで、なぜ手首が写りにくいか | 再提出 |
4. Evaluation:「問題 → 数字 → Next time」の3文で1項目
2章で書いたとおり、磁場がほぼ一定になる範囲は中心から前後 3 cm ほどしかありません。4 cm 刻みで測ると、その狭い範囲には中心付近の 28 cm と 32 cm の2点しか入らない。不合格になった版の Evaluation の1項目めは、まさにこの点を書いていました。
問題も改善案もあります。けれど読む側から見ると、「2点しか入らなかった」ことで何が困ったのかが書かれていません。そして改善案を実行すると何が分かるようになるのかも書かれていない。だから改善案が「ただの手順の変更」に見え、improvements が missing と読まれたのだと思います。出し直した版では、同じ項目に2文足しました。
足したのは、「だから何が測れなかったか」と「直すと何がどの精度で分かるか」の2点だけです。新しく加えた3項目めは、最初からこの形で書きました。
背景を補うと、私たちはセンサーの先端の印を、レールの目盛りに目で合わせて位置を決めていました。
「位置合わせが目分量だった」だけなら、どの実験にも書ける一般論です。そこに「1 cm で約50 µT 変わる場所なので、2 mm ずれると 10 µT の誤差になる」という掛け算を1つ入れると、その実験でしか書けない文になります。superficial の反対は「長い」ではなく「この実験の数字で書かれている」ことでした。
| 文の役割 | 書くこと | 使える英語の型 |
|---|---|---|
| ① 問題 | 何が足りなかったか。数字を1つ入れる | Our step of 4 cm was too large.(4 cm 刻みは大きすぎた) We measured every point only once, so …(各点を1回しか測らなかったので…) |
| ② 影響 | それで何が言えなくなったか、どれだけずれたか | … so we could not measure its width.(…だから幅を測れなかった) … so an error of 2 mm gives an error of 10 µT.(…だから 2 mm のずれが 10 µT の誤差になる) |
| ③ 改善 | 次にどうするか。数値つきで | Next time we should …(次回は〜すべきだ) This gives about 15 points …, and then we can …(こうすれば約15点が得られ、〜できる) |
5. Conclusions:仮説を分けて、ひとつずつ答える
コメントには書かれていませんでしたが、出し直しのために読み返して自分で気づいた穴がもう1つありました。私の仮説は2つの部分でできていたのです。
ところが不合格の版の Conclusions は、1つめの「中心付近でほぼ同じ」にしか答えていませんでした。冒頭で「My hypothesis had two parts.(私の仮説は2つの部分からなる)」と自分で宣言しておきながら、2つめの「中心の値は理論値に近い」については一言もない。ひな形の指示は「仮説が確かめられたか、そうでないならなぜか(If not, then why?)」なので、答えるべき問いを半分残していたことになります。
出し直した版では、2つめに対して「一部だけ確かめられた」と書きました。差は 5.1% で、近いとも遠いとも言い切れない数字だったからです。
ここで学んだのは、仮説を立てる段階で、後から1つずつ判定できる形に分けておくことです。翌週の心電図の実習では、仮説を3つの部分に分けて書き、Conclusions では「The first part …(1つめの部分は…)The second part … The third part …」と順番に判定しました。こうしておくと、自分で答え漏れに気づけます。

6. Application:病名と数字と、自分の実験との対応
3行めの「Application in medicine should be specified」が、いちばん分かりやすい指摘でした。不合格の版はこうです。
💡 MRI に一様な磁場が要る理由
MRI は、体の中の水素原子(ほとんどは水と脂肪に含まれる)が強い磁場の中で出す電波を拾って画像にします。この電波の周波数は磁場の強さで決まるので、装置はわざと場所ごとに磁場をわずかに変え、「どの周波数の電波か」から「体のどこから来た信号か」を割り出しています。
だから、もとの磁場そのものにムラがあると、信号の位置がずれ、画像がゆがみます。MRI の磁場の一様さが ppm(100万分の1)という単位で語られるのはこのためです。私たちの実験の「一様な領域」と、まったく同じ考え方です。
内容は正しい。けれど「MRI は一様な磁場が要る」は、教科書のどのページにも書いてあります。specified(具体的に)と言われたのは、ここから一段降りろ、という意味でした。出し直した版では、対象を関節のMRIに絞り、数字を2つ置きました。病院で使われる 3 T(テスラ)の装置──T は µT の100万倍の単位で、3 T は 300万 µT です──は、磁場の一様さのずれが1 ppm 未満で、1 ppm は 3 µT。私たちが実験で測った 1280 µT の、400分の1以下です。そしてこの一様さが保証されるのは、装置の中心のおよそ直径40 cm の球の中だけ。
そのうえで、なぜそれが診断に関わるのかまで書きました。手首や肘はこの球の外に置かれやすく、関節の画像では、炎症や水のたまりを見やすくするために脂肪の信号だけを消す処理(脂肪抑制)をよく使います。脂肪と水は出す電波の周波数がわずかに違うので、脂肪の周波数だけを狙って消すのですが、磁場がずれた場所では狙いが外れて、脂肪が白く残る。それが関節の中の液体のように見えることがある。だから撮りたい関節は必ず中心に置く──。最後の1文で、自分の実験に戻します。
翌週の心電図(2章の実験③)でも同じ型を使いました。最初は「軸が左に振れたら、左脚前枝ブロックや左室肥大のサインになりうる」と病名を並べるだけでしたが、出す前に、それぞれの病気で、なぜ電気の向きが変わるのかを1文ずつ足しました。左脚前枝ブロックは、心室に電気を配る「配線」の一部が通れなくなる状態で、電気が別の道を回るので向きが変わる。左室肥大は、高血圧が長く続くなどして左心室の壁が厚くなる状態で、筋肉が増えたぶん左側の信号が強くなる。病名を挙げるだけなら単語の暗記ですが、仕組みを1文添えると、その実験で測った「向き」とつながります。
| 段階 | 不合格になりやすい書き方 | 通る方向の書き方 |
|---|---|---|
| 対象 | MRI / 心電図 | 関節のMRI / 手足の3つの誘導から求める電気の向き(QRS軸) |
| 数字 | なし、または「数 ppm」 | 1 ppm = 3 µT、直径約 40 cm、正常な軸は −30〜+90° |
| 臨床との接点 | 「画像が歪む」 | 脂肪が白く残り、関節液と見誤ることがある |
| 自分の実験 | 「原理は同じ」 | 「一様な範囲の中でだけ測定は信頼できる」と1文で戻す |

7. 表を指させない数字は、正しくても載せない
具体的に書こうとすると、今度は数字を盛りたくなります。心電図のレポートで、私はまさにそれをやりかけました。R波の高さの平均は、誘導I・II・IIIでそれぞれ 1.09 mV・1.36 mV・1.25 mV でした(mV はミリボルト、電圧の単位)。心電図には、3つの誘導が同じ心臓の電気を別方向から見ている以上、同じ瞬間に記録すれば「誘導I + 誘導III = 誘導II」が成り立つという関係があります(アイントホーフェンの法則)。私はこの関係が自分たちのデータで成り立っていないことに気づき、「和は2.34 mV なのに誘導IIは1.36 mV、差は0.98 mV で42%ずれている」という段落を Analysis の中心に据えたのです。原因は、電極を付け替えながら3つの誘導を1つずつ順番に記録したので、同じ拍動を比べていないこと──という説明まで付けていました。さらに、10拍のばらつきの大きさを示す標準偏差も、全誘導ぶん計算して書き込みました。
計算そのものは合っていました。けれど最終的に、この段落も標準偏差もすべて削りました。理由は、レポートの中身について、あとで口頭で質問されるからです(1章の④)。先生に「その42%はどこから?」と聞かれたとき、指させるのはひな形の表だけ。その表には平均の行はあっても、標準偏差の欄はありません。法則の不成立を自分で見つけた形の議論は、追加の質問に全部答えられる自信がないなら、レポートの価値を上げるより危険のほうが大きい。
そこで、自分に次の規則を課しました。
- 載せる数字は、表に印刷されている値か、そこからの足し算・引き算1回まで
- 割り算を使うなら、割られる数と割る数の両方を文中に書く
- それ以外の数字は、出典のある値(正常範囲・文献値)だけ。必ずリンクを添える
標準偏差の代わりに書いたのは、表の中の最小値と最大値でした。「誘導IIIの10拍は 1.11 mV から 1.42 mV まであり、同じ記録の中でも 0.31 mV 違う」。引き算1回なので、聞かれたら表の2つのセルを指させます。ばらつきを示すという目的は同じで、質問されたときの危険だけが消えました。
2章の実験①、電気泳動の発表のあとに実際に聞かれたのは、「電圧をかける時間を延ばしたら移動度はどう変わる?」という質問でした。答えは「変わらない」。移動度は「動いた距離 × 電極の間の距離 ÷ 時間 ÷ 電圧」なので、時間が2倍になれば動いた距離もほぼ2倍になり、式の中で打ち消し合うからです。聞かれるのは、レポートに書いた式と数字の意味そのもの。だからこそ、自分で説明しきれない数字は書かないほうがいい、という結論になりました。

8. 出典と英語の水準 ― 盛るほど質問に答えられなくなる
出典についても、出し直しの途中で失敗しています。磁場のレポートでは、センサーの中にある検出素子の位置について、記憶で「素子は本体の中にある」と書いていました(この素子の位置が、4章で書いた「目で合わせた位置」の基準になります)。ところが、引用しようとしてメーカーの取扱説明書を実際に開くと、素子の位置はプローブの表面に点の印で示されていると書いてあった。出典を貼る前に中身を読んでいなければ、事実と違う文の横に、それを否定する資料のURLを並べて出すところでした。
それ以来、出典は次の形に決めています。
- 各節の直後にURLだけを置く。参考文献リストの形式は作らない
- 1本のレポートで2本程度まで。ひな形に最初から入っている参考文献の一覧には触らない
- Wikipedia は使わない。大学が公開している資料・メーカーの公式マニュアル・定番の教育用リファレンスを優先する
- 貼る前に、必ず自分で開いて該当箇所を読む
英語の水準も同じ考え方で決めました。1文は15〜28語程度、1節は2〜5段落。関係詞や受動態は使ってかまわないけれど、自分が口頭で同じことを言えない語彙は使わない。逆に平易にしすぎるのもよくなくて、たとえば「waves(波)」は「amplitudes(振幅)」に、「looks at the heart from a different side(心臓を別の側から見る)」は「measures the projection … on a different direction(…を別の方向への射影として測る)」に直したように、その分野の言い方に寄せるところは寄せます。
主語は we に揃えるつもりでいます。2人1組の実験なので、I と we が混ざると誰の判断なのかがぶれるからです。……と書きながら、出し直した磁場のレポートを読み返すと、Conclusions は「My hypothesis had two parts.(私の仮説は…)」で始まっていて、ところどころ「I think」も残っていました。規則を作っても、読み返しの段階で拾わなければ残ります。目で読み返すより、提出前に「I 」と「my」で文書内を検索するほうが確実です。
❓ よくある質問
Q1. Evaluation の項目は、いくつ書けばいいですか?
Q2. 「Limitation 1:」のようなラベルを付けたほうが読みやすいですか?
Q3. 理論値と大きくずれたときは、どう書けばいいですか?
Q4. Application の例は、授業で扱った病気でないといけませんか?
※ 見出しをタップすると続きが開きます。
9. まとめ
- 「superficial」「missing」は、書いていないのではなくこの実験の数字で書かれていないという意味だった
- Evaluation は問題(数字)→ 影響 → Next time(数値つき)の3文で1項目
- Conclusions は仮説を部分に分けて、全部に判定を付ける。答え漏れは自分で読み返して拾う
- Application は対象を絞り、数字を置き、自分の実験に1文で戻る
- 数字は表の値か四則1回まで。出典は貼る前に開く。質問されて表を指させないものは削る
不合格のコメントは3行しかなく、最初は突き放されたように感じました。けれど3行それぞれを、手元の版と1文ずつ突き合わせていくと、どの指摘も具体的な直し方を指していました。英語のレポートで苦戦すると、つい英語力のせいにしたくなります。でも今回直したのは、文法でも語彙でもなく、何を数字で言い、どこで止めるかという中身の設計でした。毎週1本ずつ出すレポートは、この型を試し直す機会でもあります。次の実習でも、まず「問題 → 数字 → Next time」から書き始めるつもりです。
評価の仕組み(合否判定・再提出の期限・発表と質疑)や、出典・数字の扱いの規則は、私が受けている授業のものと、そこで自分に課したものです。大学・科目・担当の先生によって求められる形式は異なるので、まずは配布されたひな形の指示と、返ってきたコメントを優先してください。本文中のMRI・心電図の記述は、レポートの書き方を説明するための例であり、診断や医療上の助言ではありません。

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