実習で最初に「明日この患者さんをプレゼンして」と言われたときの緊張は、今でもよく覚えています。英語で症例を伝えるのは、単語を並べれば済む話ではありません。決まった順番と、決まった言い回しがあって、そこから外れると聞き手が一気に迷子になる。内容は分かっているのに伝わらない、という悔しい経験を何度もしました。
逆に言えば、型さえ身につければ準備時間は劇的に短くなります。症例プレゼンテーションは自由作文ではなく、フォーマットに情報を流し込む作業だからです。この記事では、回診やカンファレンスで使う症例プレゼンの流れを、セクションごとの決まり文句とセットで整理します。
🗂 目次
プレゼンは9つのブロックの組み立て
最初に全体像を示します。症例プレゼンテーションの順番は、施設や科によって細部が違っても大枠はほぼ共通です。この順番を体に入れてしまえば、あとは各ブロックの入口の言い方を覚えるだけで済みます。
| # | ブロック | 英語での呼び方 | 含める内容 |
|---|---|---|---|
| 1 | 冒頭の一文 | One-liner / Opening statement | 年齢・性別・主訴・経過期間 |
| 2 | 主訴 | Chief complaint (CC) | 患者さんの言葉に近い形で1つ |
| 3 | 現病歴 | History of present illness (HPI) | 発症から受診までを時間順に |
| 4 | 既往歴 | Past medical history (PMH) | 慢性疾患・手術歴・入院歴 |
| 5 | 薬とアレルギー | Medications and allergies | 常用薬・アレルギーの有無 |
| 6 | 家族歴・社会歴 | Family and social history | 喫煙・飲酒・職業・同居者 |
| 7 | 身体所見 | Physical examination | バイタル → 全身 → 系統別 |
| 8 | 検査所見 | Investigations / Workup | 血液・画像・生理検査 |
| 9 | 評価と計画 | Assessment and plan | 鑑別と、次に何をするか |
私が最初につまずいたのは、この順番を守らずに「気づいたことから話す」形になってしまったことでした。聞き手はこの順番で情報が来ることを前提に聞いているので、順番が崩れると内容の良し悪し以前に処理できなくなります。逆に、順番さえ守れば多少英語がぎこちなくても、驚くほどきちんと伝わります。

冒頭 ― 一文目で全体像を渡す
プレゼン全体で最も重要なのが最初の一文、いわゆる one-liner です。ここで年齢・性別・関連する背景・主訴・期間を1文に詰めます。聞き手はこの一文で頭の中に枠を作り、以降の情報をそこに収めていきます。
This is a 62-year-old man who presented with chest pain for three hours.
ディス イズ ア シクスティトゥーイヤーオールド マン フー プリゼンティッド ウィズ チェスト ペイン フォー スリー アワーズ
62歳男性、3時間続く胸痛で受診されました。
💡 最も基本の型。「年齢+性別 + who presented with + 主訴 + 期間」。この形だけは丸暗記してよい
Mrs. A is a 54-year-old woman with a known history of type 2 diabetes, admitted for shortness of breath.
ミセス エー イズ ア フィフティフォーイヤーオールド ウーマン ウィズ ア ノウン ヒストリー オブ タイプ トゥー ダイアビーティーズ アドミッティッド フォー ショートネス オブ ブレス
Aさんは2型糖尿病の既往がある54歳女性で、呼吸困難のため入院となりました。
💡 背景疾患が重要な場合は with a known history of を挟む。ここで入れておくと後の説明が楽になる
I would like to present the case of a 30-year-old woman admitted yesterday.
アイ ウッド ライク トゥー プリゼント ザ ケイス オブ ア サーティイヤーオールド ウーマン アドミッティッド イエスタデイ
昨日入院された30歳女性の症例を提示します。
💡 フォーマルなカンファレンスの入り。回診では省略して直接 one-liner から入ることが多い
presented with と admitted for の使い分けは押さえておきたいところです。presented with は「(その症状で)受診した」、admitted for は「(その理由で)入院になった」。外来なら前者、病棟の患者さんなら後者が自然です。
現病歴(HPI)― 時間軸に沿って語る
現病歴は発症から現在まで、時間順に一直線で語るのが鉄則です。話が前後すると聞き手が混乱します。時間の目印になる表現を先に持っておくと、この一直線を保ちやすくなります。
He was in his usual state of health until three days ago, when he developed a fever.
ヒー ワズ イン ヒズ ユージュアル ステイト オブ ヘルス アンティル スリー デイズ アゴウ ウェン ヒー ディヴェロプト ア フィーヴァー
3日前までは普段どおりの健康状態でしたが、その日に発熱しました。
💡 発症時点を明示する定番。until … , when … の形で「いつまで正常で、いつから異常か」を1文に収める
The pain started gradually and has been getting worse since then.
ザ ペイン スターティッド グラデュアリー アンド ハズ ビーン ゲッティング ワース シンス ゼン
痛みは徐々に始まり、それ以降悪化しています。
💡 gradually / suddenly の対比と、has been getting worse(現在完了進行形)で今も続いていることを示す
The pain is described as a dull ache in the right upper quadrant, radiating to the back.
ザ ペイン イズ ディスクライブド アズ ア ダル エイク イン ザ ライト アッパー クワドラント レイディエイティング トゥー ザ バック
痛みは右上腹部の鈍痛で、背部に放散すると訴えています。
💡 is described as は「患者さんの表現によれば」のニュアンス。radiating to で放散痛を表す
There were no associated symptoms such as nausea, vomiting, or weight loss.
ゼア ワー ノウ アソシエイティッド シンプトムズ サッチ アズ ノーズィア ヴォミティング オア ウェイト ロス
悪心・嘔吐・体重減少といった随伴症状はありませんでした。
💡 陰性所見をまとめて述べる型。associated symptoms は「随伴症状」の定番語
痛みを詳しく述べるときは SOCRATES の枠が便利です ― Site(部位)、Onset(発症)、Character(性状)、Radiation(放散)、Associations(随伴症状)、Time course(経過)、Exacerbating/relieving factors(増悪・寛解因子)、Severity(強さ)。この頭文字を思い出すだけで、聞き漏らしと言い漏らしの両方が減ります。

既往歴・薬・アレルギー・生活背景
ここは速く、簡潔にが原則です。関連する情報だけを選び、関係のないものは省く。全部を読み上げると聞き手の集中が切れます。
He has a past medical history of hypertension and hyperlipidemia, both well controlled.
ヒー ハズ ア パスト メディカル ヒストリー オブ ハイパーテンション アンド ハイパーリピデミア ボウス ウェル コントロールド
既往に高血圧と脂質異常症があり、いずれもコントロール良好です。
💡 well controlled / poorly controlled は必ずセットで覚える。既往を挙げるだけでなく状態まで言うのが良いプレゼン
He underwent an appendectomy at the age of 20. Otherwise, his surgical history is unremarkable.
ヒー アンダーウェント アン アペンデクトミー アット ジ エイジ オブ トゥエンティ アザワイズ ヒズ サージカル ヒストリー イズ アンリマーカブル
20歳のとき虫垂切除術を受けています。それ以外に特記すべき手術歴はありません。
💡 unremarkable は「特記事項なし」。nothing special より医学英語らしく、あらゆる場面で使える
He takes amlodipine 5 mg once daily. He has no known drug allergies.
ヒー テイクス アムロディピン ファイヴ ミリグラム ワンス デイリー ヒー ハズ ノウ ノウン ドラッグ アラジーズ
アムロジピン5mgを1日1回内服中です。既知の薬物アレルギーはありません。
💡 no known drug allergies は NKDA と略されるほどの定型句。用法は once/twice/three times daily
He is a former smoker with a 20 pack-year history and drinks alcohol occasionally.
ヒー イズ ア フォーマー スモーカー ウィズ ア トゥエンティ パックイヤー ヒストリー アンド ドリンクス アルコホール オケイジョナリー
20 pack-year の喫煙歴があり、現在は禁煙。飲酒は時々です。
💡 current / former / never smoker の3分類と pack-year は必須。社会歴はこの一文にまとめると速い
身体所見と検査所見の伝え方
所見のパートはバイタル → 全身状態 → 系統別の順が定石です。ここでは異常所見を先に、正常所見はまとめて後ろに置くと聞きやすくなります。
On examination, he was afebrile, with a blood pressure of 148 over 92 and a heart rate of 96.
オン イグザミネイション ヒー ワズ エイフェブライル ウィズ ア ブラッド プレッシャー オブ ワンフォーティエイト オーヴァー ナインティトゥー アンド ア ハート レイト オブ ナインティシックス
診察所見では、発熱なし、血圧148/92、心拍数96でした。
💡 afebrile(発熱なし)は頻出。血圧は over で読む。On examination, … は所見パートの合図
Chest auscultation revealed decreased breath sounds at the left base.
チェスト オースカルテイション リヴィールド ディクリースト ブレス サウンズ アット ザ レフト ベイス
胸部聴診で左下肺野の呼吸音減弱を認めました。
💡 revealed は所見を述べる万能動詞。showed / demonstrated も同様に使える
The abdomen was soft and non-tender, with no organomegaly.
ジ アブドメン ワズ ソフト アンド ノンテンダー ウィズ ノウ オーガノメガリー
腹部は軟で圧痛なく、臓器腫大も認めませんでした。
💡 soft / non-tender / no organomegaly は腹部所見の3点セット。ほぼこのまま使い回せる
Blood tests showed an elevated CRP of 82 and a white cell count of 14,000.
ブラッド テスツ ショウド アン エレヴェイティッド シーアールピー オブ エイティトゥー アンド ア ホワイト セル カウント オブ フォーティーン サウザンド
血液検査でCRP 82、白血球数14,000と上昇していました。
💡 elevated / decreased / within normal limits の3つで検査値はほぼ表現できる
Chest X-ray showed consolidation in the left lower lobe.
チェスト エックスレイ ショウド コンソリデイション イン ザ レフト ロウアー ロウブ
胸部X線で左下葉に浸潤影を認めました。
💡 画像所見は「検査名 + showed + 所見 + 部位」で固定。部位は upper/middle/lower lobe で言える

正常だった項目をまとめるときは The rest of the examination was unremarkable.(その他の診察所見に特記事項はありません)の一文が便利です。全部を読み上げる必要がなくなり、プレゼンが引き締まります。
アセスメントとプラン ― 一番聞かれる場所
ここが本番です。指導医の質問はほぼすべてこのパートに集中します。重要なのは、確からしさの段階を言葉で区別すること。「たぶん」「かもしれない」「否定できない」を英語で撃ち分けられると、評価が明確に変わります。
| 確からしさ | 英語表現 | 日本語のニュアンス |
|---|---|---|
| 最も可能性が高い | The most likely diagnosis is … | 第一に考えるのは〜 |
| 可能性がある | … is also a possibility. | 〜も考えられます |
| 可能性は低い | … is less likely, given the absence of … | 〜がないことから、〜は考えにくい |
| 除外できない | We cannot exclude … at this stage. | 現時点で〜は否定できません |
| 除外すべき | We need to rule out … first. | まず〜を除外する必要があります |
| 経過を見る | We will monitor him closely for … | 〜に注意して経過観察します |
In summary, this is a 62-year-old man presenting with community-acquired pneumonia.
イン サマリー ディス イズ ア シクスティトゥーイヤーオールド マン プリゼンティング ウィズ コミュニティアクワイアド ニューモニア
まとめますと、市中肺炎で受診された62歳男性の症例です。
💡 In summary, … で締めに入る合図を出す。ここで冒頭の one-liner を診断名つきで再提示するのが型
My differential diagnosis includes pneumonia, pulmonary embolism, and heart failure.
マイ ディファレンシャル ダイアグノウシス インクルーズ ニューモニア パルモナリー エンボリズム アンド ハート フェイリャー
鑑別診断としては肺炎、肺塞栓症、心不全を考えています。
💡 differential diagnosis(鑑別診断)は DDx と略される。3つ挙げるのが無難
The plan is to start empirical antibiotics and repeat the chest X-ray in 48 hours.
ザ プラン イズ トゥー スタート エンピリカル アンティバイオティクス アンド リピート ザ チェスト エックスレイ イン フォーティエイト アワーズ
計画としては経験的抗菌薬を開始し、48時間後に胸部X線を再検します。
💡 The plan is to + 動詞 で並べるのが最も簡単。start / continue / stop / repeat / refer が頻出
質問されたときに答えが分からない場合の言い方も、先に用意しておくと安心です。I am not sure about that, but I will look it up and get back to you.(そこは分かりませんが、調べて後ほどお答えします)― 沈黙するより圧倒的に印象が良く、実際にこの一言に何度も助けられました。
使い回せる表現の一覧
最後に、ブロックを問わず何度も出てくる表現をまとめておきます。ここを覚えておくと、初見の症例でも文の骨組みだけは即座に組めます。
| 場面 | 英語表現 | 日本語 |
|---|---|---|
| 受診理由 | presented with / was admitted for | 〜で受診した / 〜で入院した |
| 既往を述べる | a known case of / a past medical history of | 〜の既往がある |
| 症状の否定 | denies any … / no history of … | 〜は否定している / 〜の既往なし |
| 特記事項なし | unremarkable / within normal limits | 特記すべきことなし / 正常範囲内 |
| 所見を述べる | revealed / showed / demonstrated | 〜を認めた |
| 悪化・改善 | has worsened / has improved | 悪化した / 改善した |
| 時間の経過 | over the past three days | この3日間で |
| まとめに入る | In summary, / To summarize, | まとめますと |
| 補足する | Of note, … | 特筆すべきこととして〜 |
| 訂正する | Sorry, let me correct that ― | すみません、訂正します ― |
Of note, … は特に使い勝手のいい表現です。順番どおりに話している途中で「ここは重要なので強調したい」というときに挟むと、聞き手の注意が自然に集まります。プレゼンにメリハリを付ける一言として、私は毎回どこかで使っています。
準備のコツ ― 原稿を書かずに話す
最後に準備の話をします。結論としては、英文の原稿を書いてはいけません。書くと必ず読んでしまい、読むと必ず棒読みになり、質問で崩れます。
- 準備するのは9つのブロックの見出しと、キーワードだけ。文章ではなく単語のメモにする
- one-liner だけは完全に暗記する。ここが滑らかだと全体の印象が決まる
- 声に出して3回通す。黙読では詰まる場所が分からない。3回目でだいたい安定する
- 想定質問を2つだけ用意する。「なぜその診断を第一に考えたか」「次に何をするか」はほぼ必ず来る
- 時間を計る。回診なら2〜3分、カンファレンスなら5〜7分が目安。長すぎるプレゼンは必ず途中で止められる
私はこの方法に変えてから、準備時間が半分以下になり、しかも本番での対応力が上がりました。原稿を書いていた頃は1症例に1時間以上かけていましたが、キーワードのメモなら20分で済みます。浮いた時間を鑑別を考えるほうに回せるので、プレゼンの中身そのものも良くなりました。
それから、うまい人のプレゼンを構造で聞く癖をつけてください。内容ではなく「今どのブロックにいるか」「どの言い回しで次に移ったか」に注意を向けると、盗める表現が一気に増えます。私が上に挙げた表現も、大半は先輩や指導医のプレゼンを聞きながらメモしたものです。
❓ よくある質問
Q1. one-liner にはどこまで情報を入れるべきですか?
Q2. 現病歴で陰性所見(なかった症状)はどこまで述べますか?
Q3. プレゼン中に間違いに気づいたらどうすればいいですか?
Q4. 質問に答えられないときは、どう言えばいいですか?
Q5. 回診とカンファレンスで話し方を変える必要はありますか?
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おわりに
- 症例プレゼンは9ブロックの順番が世界共通。順番を守るだけで伝わり方が変わる
- 冒頭の one-liner は完全暗記。年齢・性別・既往・主訴・期間の5点に絞る
- 現病歴は時間順に一直線。SOCRATES の枠で言い漏らしを防ぐ
- アセスメントでは most likely / less likely / cannot exclude で確からしさを撃ち分ける
- 準備は原稿ではなくキーワード。声に出して3回、想定質問を2つ
症例プレゼンテーションは、英語力そのものよりも「型を知っているか」で差がつく場面です。逆に言えば、型は覚えれば誰でも手に入る。私自身、最初のプレゼンは散々でしたが、上の9ブロックを紙に書いて机に貼っておくだけで、数週間でまったく別物になりました。まずは one-liner の一文だけ、完璧に言えるようにしてみてください。そこから先は驚くほど楽になります。
※ この記事は語学学習のための表現集です。実際の診療における判断・手技・患者さんへの説明は、必ず指導医の指示と各施設の規定に従ってください。


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