発表本体は原稿を作り込めば何とかなります。本当に怖いのは、そのあとの質疑応答です。原稿がなく、相手が何を聞いてくるかもわからず、しかも聞き取れなかった時点で答えようがない。私も最初の発表で、質問の意味を取り違えたまま見当違いの答えを返してしまい、発表そのものより長く落ち込みました。
ただ、あとから振り返ると、崩れた原因は英語力ではありませんでした。聞き取れなかったときに聞き返す言い方を持っていなかったこと、そして答えられないときに「答えられない」と言う型を持っていなかったこと。この2つだけです。質疑応答は「聞き取る → 間を作る → 答える」の3段に分解でき、それぞれに定型があります。この記事では、その3段を順に埋めていきます。
📌 この記事でわかること
- 質問が聞き取れなかったときの、失礼にならない聞き返し方
- 答えを考える時間を稼ぐための「間の作り方」
- わからないことを、逃げずに誠実に伝える定型
- 厳しい指摘を受けたときに議論として受け止める返し方
Q&Aは「聞き取る・間を作る・答える」の3段
質疑応答で崩れる人を見ていると、ほとんどが第1段の「聞き取る」で失敗していることに気づきます。質問が半分しか聞き取れていないのに、聞き返すのが恥ずかしくて、なんとなく推測で答え始めてしまう。そこから話が噛み合わなくなり、最後まで立て直せません。
実際には、聞き返しは減点ではありません。英語が母語ではない発表者に対して、聞き返されることを不快に思う聞き手はまずいませんし、母語話者どうしでも普通に聞き返しています。むしろ推測で見当違いの答えを返すほうが、はるかに印象が悪いという事実を先に受け入れてしまうと、質疑応答は一気に楽になります。
第2段は「間を作る」。英語で即答しようとすると思考が追いつきません。質問を言い換えて確認する、感謝を述べる、といった意味のある数秒を挟むことで、頭の中で答えを組み立てる時間が作れます。第3段でようやく答えるわけですが、ここまで来れば発表本体と同じで、準備した知識を出すだけです。

質問を正しく受け取る
聞き返しには段階があります。全部聞き取れなかったのか、一部だけなのかで言い方を変えると、相手も何を繰り返せばいいかがわかって親切です。ただ Pardon? を連発するより、どこがわからなかったかを示すほうが、結果的にやり取りが短く済みます。
Sorry, could you repeat the question, please?
ソーリー・クッド・ユー・リピート・ザ・クエスチョン・プリーズ
すみません、質問をもう一度お願いできますか。
💡 全体が聞き取れなかったとき。please まで言い切ると丁寧さが担保される。
I didn’t quite catch the last part.
アイ・ディドント・クワイト・キャッチ・ザ・ラスト・パート
最後の部分が聞き取れませんでした。
💡 一部だけ聞き返す形。quite が入ることで「まったく聞こえない」ではなく「取り逃した」という柔らかさになる。
Could you speak up a little? It’s hard to hear at the front.
クッド・ユー・スピーク・アップ・ア・リトル
もう少し声を大きくしていただけますか。前だと聞き取りにくくて。
💡 音量の問題を自分の英語力の問題にしない。理由を添えると角が立たない。
So, if I understand correctly, you’re asking whether …
ソウ・イフ・アイ・アンダースタンド・コレクトリー・ユア・アスキング・ウェザー
確認させてください。〜かどうかを聞かれている、ということですね。
💡 最重要の一文。質問を自分の言葉で言い直して確認する。誤解を防げるうえに、考える数秒も稼げる。
Are you asking about the method, or about the results?
アー・ユー・アスキング・アバウト・ザ・メソッド・オア・アバウト・ザ・リザルツ
手法についてですか、それとも結果についてですか。
💡 質問が漠然としているときに、選択肢を示して絞り込む。

答えるまでの間を作る
日本語なら「そうですね……」で稼げる数秒が、英語だと真っ白な沈黙になります。ここを埋める表現を用意しておくと、止まっているのに止まって見えない状態が作れます。
大切なのは、間を埋める言葉が意味を持っていることです。Ah… や Um… を伸ばすと準備不足に見えますが、質問を評価したり、論点を整理したりする一文なら、考えている時間そのものが議論の一部になります。
| 用途 | 英語 | 日本語 |
|---|---|---|
| 質問を受け止める | That’s a good question. | いい質問ですね |
| 質問を受け止める | Thank you, that’s an important point. | ありがとうございます。重要な点です |
| 整理を宣言する | Let me think about that for a second. | 少し考えさせてください |
| 整理を宣言する | There are two parts to that question. | その質問は2つに分かれますね |
| 範囲を確認する | Just to be clear, you mean during the second phase? | 念のため、2段階目のことですね? |
| 答えの構造を予告 | I’d answer that in two ways. | 2つの側面からお答えします |
特に There are two parts to that question. は強力です。長い質問を2つに割ると、答えやすいほうから先に話せますし、話しているあいだにもう一方の答えを組み立てられます。私はこの一文に何度も助けられました。
答えられないときの言い方
答えを知らない質問は必ず来ます。ここで知ったかぶりをすると、その一点で発表全体の信頼が落ちます。逆に、わからないと認めたうえで「どうすればわかるか」まで言えると、むしろ評価が上がります。これは学部を問わず、そして卒業後の職場でも同じです。
使う型は3つです。①わからないと認める、②今わかっている範囲を示す、③調べる・後で答えると約束する。この3つをつなげると、「答えられません」で終わらない返答になります。
That’s outside the scope of what I looked at, I’m afraid.
ザッツ・アウトサイド・ザ・スコープ・オブ・ワット・アイ・ルックト・アット
残念ながら、それは今回調べた範囲の外にあります。
💡 「知らない」ではなく「範囲外」と言うことで、準備不足ではないことが伝わる。
I don’t have the exact figure with me, but it was roughly …
アイ・ドント・ハヴ・ジ・イグザクト・フィギュア・ウィズ・ミー
正確な数値は手元にありませんが、おおよそ〜でした。
💡 数字を問われたとき。曖昧なまま断定するより、概数だと明示する。
That’s a good point. I’d need to check the original source before answering.
アイド・ニード・トゥ・チェック・ジ・オリジナル・ソース
いい指摘です。原典を確認してからお答えしたいです。
💡 誠実さが最も伝わる形。学術的な場ではこれが正解になることが多い。
Could I come back to you on that after the session?
クッド・アイ・カム・バック・トゥ・ユー・オン・ザット・アフター・ザ・セッション
その点は発表後にあらためてお答えしてもいいですか。
💡 先送りではなく約束として響く。実際に後で声をかけると信頼になる。
I’m not sure, but my guess would be … — though I’d want to verify that.
マイ・ゲス・ウッド・ビー
確信はありませんが、推測では〜です。ただ確認が必要です。
💡 推測だと明示したうえで答える。「わからない」で終わらせたくないときに。
厳しい指摘・反論への返し方
質疑応答では、質問ではなく批判が飛んでくることもあります。ここで反射的に言い訳を並べると、防戦一方に見えてしまいます。英語圏の議論では、指摘をいったん受け止めてから応じるのが基本形です。
受け止めるといっても、全面的に非を認める必要はありません。「その指摘は妥当だ」と認める部分と、「それでもこう考える」と主張する部分を分けて話します。この分離ができると、批判が議論に変わります。
That’s a fair criticism, and it’s something I’d like to address in the next stage.
ザッツ・ア・フェア・クリティシズム
もっともな批判です。次の段階で扱いたいと考えています。
💡 限界を認めつつ、今後の計画に位置づける。研究発表で最も使う形。
I take your point, but I’d still argue that …
アイ・テイク・ユア・ポイント・バット・アイド・スティル・アーギュー・ザット
ご指摘は受け止めます。ただ、それでも〜だと考えます。
💡 受け止めと主張の分離。still が「それでも」を担っている。
You’re right that the sample was small. What I’d say is that …
ユア・ライト・ザット・ザ・サンプル・ワズ・スモール
サンプルが小さいというのはそのとおりです。そのうえで申し上げると〜。
💡 指摘の中身を具体的に言い直して認めると、聞いていたことが伝わる。
I hadn’t considered that. Thank you — that’s something to look into.
アイ・ハドント・コンシダード・ザット
そこは考えていませんでした。ありがとうございます、検討すべき点ですね。
💡 反論できないときの最善手。素直に受け取るほうが評価される場面は多い。

自分が質問する側になったとき
授業やセミナーで質問できるかどうかは、そのまま存在感につながります。日本語でもそうですが、英語だとさらに一歩踏み出しにくい。ここでも型を持っておくと、内容が普通の質問でも堂々と聞けます。
英語の質問には作法があり、質問の前に一言添えるのが一般的です。発表への感謝や、どの部分についての質問かを先に示してから本題に入ります。いきなり質問をぶつけると、内容が同じでも攻撃的に響くことがあります。
Thank you for the talk. I have a question about your second slide.
サンキュー・フォー・ザ・トーク
発表ありがとうございました。2枚目のスライドについて質問があります。
💡 定番の入り方。どこについての質問かを先に言うと、相手が該当箇所を思い出せる。
I was wondering how you decided on the sample size.
アイ・ワズ・ワンダリング・ハウ・ユー・ディサイデッド・オン
サンプルサイズをどう決めたのか気になりました。
💡 I was wondering … は最も柔らかい質問の形。詰問に聞こえない。
Could you elaborate on the last point?
クッド・ユー・エラボレイト・オン・ザ・ラスト・ポイント
最後の点をもう少し詳しく説明していただけますか。
💡 elaborate は「詳述する」。聞き取れなかったときにも、この形なら理由を明かさずに済む。
Just a quick follow-up on that — does the same apply to …?
ジャスト・ア・クイック・フォローアップ・オン・ザット
関連して1点だけ。同じことは〜にも当てはまりますか。
💡 他の人の質問に続けて聞くとき。quick を入れて時間を取らない意思を示す。
🧠 ミニクイズ:この場面、どう切り抜ける?
Q1. 質問の最後の部分だけが聞き取れなかった。
Q2. 答えを知らない質問が来た。ごまかしたくない。
Q3. 答えを考える数秒がほしい。沈黙は避けたい。
Q4. 「サンプル数が少なすぎる」と厳しく指摘された。
Q5. 他の人の質問に関連して、自分も一言聞きたい。
※ 見出しをタップすると続きが開きます。
まとめ
- 質疑応答は「聞き取る → 間を作る → 答える」の3段に分解できる
- 崩れる原因のほとんどは第1段。推測で答えるより、聞き返すほうが印象がいい
- 質問を自分の言葉で言い直して確認すると、誤解を防ぎつつ数秒稼げる
- 答えられないときは「範囲外」「確認が必要」と表現し、後で答えると約束する
- 厳しい指摘は、認める部分と主張する部分を分けて返す
質疑応答が怖いのは、準備できない時間だと思っているからです。実際には、聞き返し方・間の作り方・答えられないときの言い方は、発表原稿と同じように事前に準備できます。むしろ発表本体より先に用意しておくべきなのがこの部分です。次の発表では、So, if I understand correctly, you’re asking whether … の一文だけでも口に入れて臨んでみてください。この一文があるだけで、聞き取れなかった質問が「終わり」ではなくなります。


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