対面の授業なら、聞き取れなくても隣の人に小声で聞ける。板書を写している人の手元も見える。教授の口の動きも見える。ところがオンラインになると、その助けが全部消える。残るのは、音質の落ちた音声と、遅れて届く映像だけになる。
私が最初の学期で一番つまずいたのは、専門用語でも文法でもなかった。「いま話しかけていいのか分からない」という一点だった。対面なら手を挙げれば済むし、目が合えば相手が止まってくれる。画面越しではその合図が届かないので、黙っているうちに話題が二つ先へ進んでしまう。この記事では、オンラインの授業・ゼミ・研究室ミーティングで実際に必要になる英語を、場面ごとの決まり文句としてまとめる。医学部に限らず、英語で行われるオンラインの講義や会議ならそのまま使える。
難しいのは語彙ではなく、割り込むタイミング
オンラインの英語が対面より難しく感じる理由は、はっきりしている。非言語の情報がほぼ全部落ちるからだ。身を乗り出す、口を開きかける、視線を送る ― 対面ではこうした合図で「これから話す」と予告できる。画面ではそれが伝わらないので、話し始めた瞬間に相手とぶつかる。
さらに厄介なのが遅延だ。回線の往復で0.3〜0.5秒ほど遅れると、相手が話し終えたと思って口を開いたときには、相手の次の文がもう届いている。つまり「自然な間で入る」という対面のやり方が、そもそも成立しない。
だから対策は語彙を増やすことではなく、「これから話します」と言葉で明示する型を持っておくことになる。以下に挙げる表現は、どれも短い。長い文を組み立てている余裕はないからだ。
つないだ直後の30秒で使う表現
最初に音声と映像を確認しておくと、あとの30分が楽になる。ここで黙っていると、自分の声が届いていないことに気づかないまま挙手し続ける羽目になる。
Can you hear me OK?
キャン ユー ヒア ミー オウケイ
私の声、ちゃんと聞こえていますか?
💡 最初の一言はこれで固定していい。OK を all right に替えても意味は同じ。
Am I coming through clearly?
アム アイ カミング スルー クリアリー
はっきり届いていますか?
💡 come through は「(通信が)届く」。少し丁寧で、教授やゲスト講師に対しても使いやすい。
I’ll keep my camera off — my connection is a bit unstable.
アイル キープ マイ キャメラ オフ マイ コネクション イズ ア ビット アンステイブル
回線が不安定なので、カメラは切ったままにします。
💡 理由を一言添えるだけで、印象がまったく違う。黙ってカメラを切ると「聞いていない人」に見える。
I just joined — did I miss anything important?
アイ ジャスト ジョインド ディッド アイ ミス エニシング インポータント
いま入りました。何か重要なことを聞き逃していますか?
💡 遅れて入ったときの定番。Sorry I’m late. だけで終わらせず、続きを聞くところまでが型。

音のトラブルは「自分側」と「相手側」で言い方を変える
ここが一番間違えやすい。日本語だと「聞こえません」の一言で両方をまかなえるが、英語では誰の側に問題があるのかを主語で示す。主語を取り違えると、相手は自分のマイクを疑い続けて時間が溶ける。
You’re on mute.
ユア オン ミュート
ミュートになっていますよ。
💡 オンライン会議で世界一使われている文のひとつ。You’re muted. でもよい。
Sorry, I was on mute. Let me start again.
ソーリー アイ ワズ オン ミュート レット ミー スタート アゲイン
すみません、ミュートでした。もう一度言います。
💡 自分がやってしまった側。謝ってすぐ言い直すところまでを一息で。
You’re breaking up. Could you say that again?
ユア ブレイキング アップ クッジュー セイ ザット アゲイン
音声が途切れています。もう一度お願いできますか?
💡 break up は「音が途切れ途切れになる」。音量ではなく回線の問題を指す。
Your audio is cutting out at my end.
ユア オーディオ イズ カッティング アウト アット マイ エンド
こちらでは、あなたの音声が途切れています。
💡 at my end =「私の側では」。他の人には正常に聞こえている可能性を残す言い方で、相手に無用な設定変更をさせずに済む。
| 伝えたいこと | 英語 | 誰の側の問題か |
|---|---|---|
| 声が出ていない | You’re on mute. | 相手 |
| 自分が消音のままだった | Sorry, I was on mute. | 自分 |
| 音が途切れる | You’re breaking up. | 回線(相手側が多い) |
| こちらだけ聞こえない | Your audio is cutting out at my end. | 自分の回線かもしれない |
| 音が小さい | Could you speak up a little? You’re very faint. | 音量 |
| ハウリングしている | There’s an echo — someone might have two devices on. | 誰かが二重に接続している |
最後の echo(ハウリング)は、同じ部屋の二人が別々の端末で入っているときに起きる。原因が特定の個人にあると言い切らず、someone might〜 とぼかすのが実際の現場の言い方だ。
聞き取れなかったときは、3段階で返す
Sorry? だけを繰り返すと、相手は同じ速さで同じ文をもう一度言うだけになる。結果は変わらない。どこが分からなかったかを specify するのが要点で、私は次の3段階で使い分けている。
第1段階 ― 全部もう一度。文全体を取り逃した、あるいは音声が途切れたとき。
Sorry, could you repeat the last part?
ソーリー クッジュー リピート ザ ラスト パート
すみません、最後の部分をもう一度お願いできますか?
💡 the last part と範囲を切ると、相手は最初から全部言い直さずに済む。
第2段階 ― 特定の語だけ。文の構造は取れたが、単語ひとつが抜けたとき。ここまで具体的に返せると、会話が止まらない。
You said the sample was — sorry, what was the word after "sample"?
ユー セッド ザ サンプル ワズ ソーリー ワット ワズ ザ ワード アフター サンプル
「サンプルが」の後、すみません、何とおっしゃいましたか?
💡 聞き取れたところまでを自分で言い直してから聞くと、相手は該当箇所だけを答えてくれる。
第3段階 ― 綴りと数字。固有名詞・薬品名・数値は、音だけで確定させようとしない方が速い。
Could you spell that for me? / Could you put it in the chat?
クッジュー スペル ザット フォー ミー クッジュー プット イット イン ザ チャット
綴りを教えていただけますか? / チャットに書いていただけますか?
💡 オンラインならではの逃げ道がチャット欄。音声で粘るより確実で速い。数字の読み上げはこちらの記事でまとめている。

回線が落ちそうなとき、落ちた後
接続が不安定になると、多くの人は黙り込む。これが一番よくない。落ちる前に予告しておくと、落ちたことが「事故」ではなく「共有済みの事情」になる。
My connection is unstable — I might drop out for a moment.
マイ コネクション イズ アンステイブル アイ マイト ドロップ アウト フォー ア モーメント
回線が不安定です。少しの間、落ちるかもしれません。
💡 drop out は「(通話から)落ちる」。予告しておけば、消えても誰も慌てない。
Sorry, I got disconnected. Could someone catch me up?
ソーリー アイ ゴット ディスコネクテッド クッド サムワン キャッチ ミー アップ
すみません、切断されました。どなたか状況を教えてもらえますか?
💡 catch someone up =「話に追いつかせる」。復帰の一言としてそのまま使える。
I’m going to switch to my phone — give me two minutes.
アイム ゴーイング トゥ スイッチ トゥ マイ フォウン ギヴ ミー トゥー ミニッツ
スマホに切り替えます。2分ください。
💡 端末を替えるときは所要時間まで言う。無言で消えるのと印象がまるで違う。
発言に入れないときの割り込み方
冒頭に書いたとおり、ここがオンライン最大の難所になる。対面の「間」が使えない以上、割り込む意思を最初の2語で示すしかない。先頭に置く語が決まっていれば、その後の文はゆっくり組み立てても待ってもらえる。
Sorry to jump in — can I add one thing?
ソーリー トゥ ジャンプ イン キャナイ アッド ワン シング
割り込んですみません。ひとつ足してもいいですか?
💡 jump in はまさに「割り込む」。one thing と量を宣言すると、通してもらいやすい。
Can I go back to something you said earlier?
キャナイ ゴー バック トゥ サムシング ユー セッド アーリアー
さっきおっしゃったことに戻ってもいいですか?
💡 話題が先へ進んでしまった後に、遅れて戻すための一文。オンラインでは頻繁に必要になる。
I’ll put my question in the chat so we don’t lose time.
アイル プット マイ クエスチョン イン ザ チャット ソー ウィー ドント ルーズ タイム
時間を使わないように、質問はチャットに書いておきます。
💡 口頭で入れないなら、無理をせず文字に逃がす。これはオンラインだけの正当な選択肢で、遠慮ではなく効率として説明できるのが強い。
挙手ボタンを使う場面でも一言添えておくとよい。I’ve had my hand up — should I go ahead?(挙手していました。話してよいですか?)は、司会が見落としているときの角の立たない催促になる。対面のゼミでの割り込みはゼミ・グループワークで発言する英語表現35選に、質疑応答での聞き返しは発表後の質疑応答で崩れない英語にまとめてある。

画面共有とチャットまわり
スライドや論文を見せる場面は、授業でも研究室のミーティングでも必ず来る。共有の前後で使う文はごく少ないので、丸ごと覚えてしまうのが早い。
| 場面 | 英語 | 日本語 |
|---|---|---|
| 共有を始める | Let me share my screen. | 画面を共有します |
| 見えているか確認 | Can you see my screen? / Are you seeing the slide? | 画面(スライド)は見えていますか? |
| どのウィンドウか確認 | Are you seeing the PDF or my desktop? | PDFが見えていますか、それともデスクトップですか? |
| 共有を終える | I’ll stop sharing now. | 共有を止めます |
| 相手に共有を頼む | Could you share your screen? | 画面を共有していただけますか? |
| リンクを送る | I’ll drop the link in the chat. | リンクをチャットに貼ります |
| 録画の可否を聞く | Is this session being recorded? | この回は録画されていますか? |
最後の Is this session being recorded? は覚えておく価値がある。録画があるなら、その場で無理に聞き取ろうとせず「後で見直す」という選択肢が生まれるからだ。聞き取りに全力を使うか、理解に使うかを切り替えられる。
退出するときの一言も用意しておくと気持ちが楽になる。I have to drop off a few minutes early — thanks, everyone.(数分早く抜けます。ありがとうございました)で十分で、理由の説明は求められていない限り要らない。
💡 語源メモ ― remote も mute も、実はラテン語のまま
オンラインまわりの英単語は、意外なほどラテン語の姿を残している。remote は remotus(レモートゥス)= 「遠ざけられた」。re-(離れて)+ moveo(動かす)の完了分詞で、「動かして遠くへ置かれた状態」がそのまま remote になった。
mute は mutus(ムートゥス)= 「声を出さない」。ラテン語では話せない人や物言わぬ動物を指す語だった。You’re on mute. は、語源まで遡ると「あなたは物言わぬ状態にある」と言っている。
会議アプリの名前に使われる session は sessio(セッシオ)= 「座ること」。sedeo(座る)から来ていて、本来は「人々が座って集まっている状態」を指す。画面越しでも session と呼ぶのは、なかなか味わい深い。
ついでに、video(ヴィデオ)は「私は見る」、audio(アウディオ)は「私は聞く」という一人称単数の動詞そのもの。名詞ではなく「見る/聞く」という動作の形が、そのまま機器の名前になっている。解剖用語の読み方は解剖学ラテン語の基本で扱っている。
❓ よくある質問
Q1. 音声トラブルのたびに謝るのは、しつこくないですか?
Q2. 聞き取れないのが自分の英語力のせいなのか、回線のせいなのか分かりません。
Q3. チャットに逃げてばかりだと、消極的に見えませんか?
Q4. カメラは常にオンにすべきですか?
Q5. 録画がある授業でも、その場で聞き取る練習をした方がいいですか?
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おわりに
オンラインの英語でつまずくのは、実力の問題ではなく情報が落ちた環境の問題だ。対面なら自然にできていた「これから話す」「いま分からなかった」という合図が届かないので、その分を言葉で埋める必要がある。埋めるための文は、この記事に出てきた程度の短いものでいい。
覚える順番をつけるなら、まず音のトラブル4つ(You’re on mute. / I was on mute. / You’re breaking up. / Could you spell that?)、次に割り込みの2つ(Sorry to jump in — / Can I go back to〜?)。この6つが口から出るようになるだけで、画面越しに黙り込む時間はかなり減る。
そして、うまく言えなかった日があっても気にしなくていい。回線のせいにできる場面が、対面よりずっと多いのがオンラインの唯一の利点だ。


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