「海外の医学部って、1日どんな感じなの?」とよく聞かれます。以前の私はこの質問に、朝は講義で午後は実習で夜は復習で……という、当たり障りのない答え方をしていました。嘘ではないのですが、答えたあとで毎回もやもやしていました。それは私の生活の説明になっていなかったからです。
そこで、学期が始まる前に配られた時間割ファイル(カレンダーに取り込む形式のもの)を、プログラムで全部読み込んで数えてみました。1学期16週ぶん、予定の数は216個、合計297.8時間。数えて初めて分かったのは、忙しさの正体が「量」ではなく「置かれ方」だったということでした。
この記事は、その216コマを分解した結果と、そこから組み直した1日の使い方の記録です。平均的な1日を紹介する記事ではありません。むしろ「平均的な1日は存在しない」というのが、数えて出た結論でした。
🗂 目次
1学期を数えたら216コマ・297.8時間だった
まず全体像です。1学期(16週)の内訳はこうなりました。
| 種別 | コマ数 | 性質 |
|---|---|---|
| 実習 | 145 | 出席必須・時間も場所も動かせない |
| 対面講義 | 33 | その場に行かないと聞けない |
| 録画講義 | 38 | 自分で時間を決められる唯一の枠 |
| 合計 | 216コマ / 297.8時間 | 週あたり平均18.6時間 |
週18.6時間。この数字だけ見ると、正直かなり少なく見えます。日本の大学生の平均的な履修時間とそう変わらないか、むしろ軽いくらいです。数えるまで、私は自分の生活をもっと「詰まっている」と感じていました。この感覚のズレが、この記事で一番書きたかったところです。
科目別に見ると偏りがはっきりします。最も重いのは生化学で73コマ・65.2時間。解剖学と組織学がそれぞれ40コマ・60.0時間で続きます。つまり上位3科目だけで185時間、全体の6割を超えます。「全科目を均等に頑張る」という計画が最初から成立しない構造だと、時間割の段階で分かるわけです。
そして注目すべきは実習145コマという数字です。実習は時間も場所も自分の裁量が一切ない枠です。全216コマの67%が動かせない予定で埋まっている。残りをどう使うかが生活の設計そのものになります。
火曜の真ん中に、6時間15分の空白があった
解析していて一番驚いたのがここです。火曜日は16週すべてが完全に同じ形をしていました。
- 08:30–10:00 組織学の講義
- 10:00–16:15 ―― 予定なし
- 16:15– 組織学の実習
- 18:00–19:30 解剖学の実習
真ん中に6時間15分の空白があります。しかもこれが16週続くので、1学期で合計100.0時間。全拘束時間297.8時間の3分の1に相当する量が、毎週同じ曜日の同じ時間帯に、まとまって存在していたことになります。
数える前、私はこの時間を「講義と実習の間の待ち時間」だと思っていました。実際、最初の数週間はカフェで課題を少しやり、スマホを見て、昼を食べて、気づいたら実習の時間、という過ごし方をしていました。週6時間なら「ちょっとした空き時間」ですが、学期で100時間なら、それは科目1つぶんの分量です。解剖学の全授業時間(60.0時間)より多い。
もうひとつ効いたのは、この前後の予定がすべて同じ建物の中で完結していることでした。移動が発生しないので、この6時間は丸ごと使えます。逆に言えば、外に出ると往復のぶんだけ確実に削れる。「動かないほうが得な時間帯」がはっきりしているのは、数えて初めて意識したことでした。
100時間の空白に、何を置いたか
この100時間の使い道を決めるとき、条件を3つ立てました。
- その日の後半に直結すること ―― 16:15から組織学、18:00から解剖学の実習が控えている
- 中断に強いこと ―― 途中で人に話しかけられても再開できる作業にする
- 持ち物が増えないこと ―― 朝から夜まで同じ荷物で動く日なので
この3条件を全部満たしたのが「その日の実習の予習」でした。当たり前の結論に見えますが、重要なのは予習が「やったほうがいいこと」から「その時間にしか置けないもの」に変わった点です。空白の使い道を決めていないと、予習は夜に回ります。夜に回すと、実習で疲れた後にやることになり、たいてい消えます。
実習の予習をこの枠に固定してから、実習が「初めて見る場所」ではなく「答え合わせの場」になりました。解剖実習は範囲が広く、その場で初見の構造を追いかけると時間内に終わりません。先に名前と位置を頭に入れておくと、実習では自分の理解が合っているかを確認するだけで済みます。
残った時間は、組織学のスケッチの下描きに充てています。組織学の実習は「見えたものを描く」作業が中心で、これも下描きがあるかどうかで所要時間がまるで違います。どちらも「後半の自分の負担を前半で減らす」という同じ構造です。
週によって拘束時間が2倍近く違う
週ごとの合計時間を出すと、平均18.6時間という数字がいかに当てにならないかが分かります。
| 週 | 拘束時間 | 平均との差 |
|---|---|---|
| 最も重い週 | 23.2時間 | +4.6時間 |
| 平均 | 18.6時間 | ― |
| 最も軽い週 | 12.8時間 | −5.8時間 |
最も重い週と最も軽い週で10.4時間の差があります。1.8倍です。ここで大事なのは、重い週に何ができるかではなく、重い週に何を落とすかを先に決めておくことだと考えるようになりました。
週23時間の週に、18.6時間の週と同じ自習量を積もうとすると必ず破綻します。破綻したときに削られるのは、たいてい優先度が低いものではなく「削っても今日は困らないもの」――つまり運動・睡眠・語学のような、効果が遅れて出るものです。私は実際にこれをやって、筋トレが15日間まるごと消えた時期があります。
だから今は、週の頭に時間割の合計を見て、20時間を超える週は最初から「短縮版」で走ると決めています。判断を週の頭に1回で済ませ、その週の毎日は迷わない。これは崩れないための工夫というより、崩れ方を自分で選ぶための工夫です。
移動の45分は「余り」ではなく枠として扱う
キャンパスが分かれているので、1日のうちに校舎を移動する日があります。数えたところ学期中に16日。そのうち9日が同じパターンでした。木曜日、前の授業が10:15に終わり、次が別キャンパスで11:00開始。移動を含めて45分。
45分は中途半端です。腰を据えた勉強には短く、ただ移動するには長い。最初はここを完全に無駄にしていました。今はこの45分に置くものを1つだけ固定しています ―― 前日の実習で出てきた用語の確認です。移動中でも画面を見るだけでできて、中断しても損がなく、量が少ない。
ポイントは、45分が9回あると分かっていることだと思っています。合計6時間45分。「移動の空き時間」と呼んでいる限り設計対象になりませんが、「学期に6時間45分ある枠」と呼べば設計対象になります。名前を変えると扱いが変わるのは、時間の使い方でよく起きることだと感じています。
録画講義38本は、序盤に偏っている
録画講義は38本。前述のとおり唯一「いつ見るか」を自分で決められる枠です。ところが配信時期を数えると、38本のうち18本(47%)が学期の最初の1か月に集中していました。
これは危険と好機の両方です。危険なのは、序盤にため込むと後半まで残り、試験期に「見ていない録画が20本ある」状態になること。好機なのは、序盤は対面の拘束が比較的軽いので、ここだけは前倒しが効くことです。
そこで、録画は「配信された週のうちに見る」ではなく「配信された週に見る本数の下限だけ決める」形にしました。前倒しできる週に多めに進め、重い週はゼロでもいい。学期を通じて残数が単調に減っていればよいという管理に変えたわけです。時間割の中で唯一やわらかい枠なので、ここを緩衝材として使っています。
完全な空き平日は、学期中に4日しかない
もう一つ、数えて初めて分かった数字です。授業の予定が1つも入っていない平日は、学期中にたった4日。あとは年末年始の休みが11日あるだけでした。
この4日は貴重なので、今は予定を入れる前に用途を決めてあります。1日は完全に休む日、残りは遅れている科目の巻き返しに充てる、という形です。用途を決めていないと、この手の日は「なんとなく勉強するけど休んだ感じもしない日」になります。私は前の学期にそれを何度かやりました。
「忙しくて休めない」という言い方をしがちですが、時間割を数えると、休みが取れないのではなく、休む日が構造的にほとんど存在しないことが分かります。これは意志の問題ではないので、意志で解決しようとしないほうがいい。存在しないなら、作るか、あきらめて別の場所に分散するかの二択です。私は後者を選んで、日曜の午後を毎週固定で空けています。
崩れた週のための「最低ライン」
ここまでの数字を前提に、私は1日を2種類だけ用意しています。通常版と短縮版です。短縮版の中身はこれだけです。
- その日の実習の予習(火曜の空白枠でやる分)
- 睡眠を削らない
- 食事にタンパク質を1品足す
3つだけです。少なすぎるように見えますが、短縮版は「頑張らなくても達成できる量」でなければ意味がありません。崩れている週に短縮版すら達成できないと、今度は短縮版そのものを使わなくなります。
切り替えの判断は週の頭に1回だけ。前述のとおり、その週の拘束時間が20時間を超えていたら短縮版という機械的な基準にしてあります。体調や気分で決めると、決める行為自体が消耗になるからです。
❓ よくある質問
Q1. 授業以外の自習は1日どれくらいですか?
Q2. 週18.6時間なら余裕があるのでは?
Q3. 時間割を自分で解析するのは大変ですか?
Q4. 日本の医学部との一番の違いは何ですか?
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数えてみて変わったこと
この解析をやる前と後で、生活の中身はそれほど変わっていません。変わったのはどこに手を入れるべきかが分かったことです。
- 1学期216コマ・297.8時間、週平均18.6時間 ―― 総量は多くない
- 実習が145コマ(67%)で、時間も場所も動かせない ―― きついのは配置
- 火曜の空白6時間15分 × 16週 = 100時間。ここが最大の設計対象
- 週の振れ幅は12.8〜23.2時間の1.8倍。平均で計画すると壊れる
- 空き平日は学期中4日だけ。休みは構造的に存在しない
「忙しい」という感覚は、実際には「拘束が長い日がある」「週の振れ幅が大きい」「まとまった休みが無い」という3つの別々の現象でした。名前が1つしかないと対策も1つになってしまいます。分けて名前を付けたら、それぞれ違う手を打てるようになりました。
もし今、時間割が手元にある人がいたら、まず曜日ごとの空白を数えることをおすすめします。スケジュール術の記事を読むより、自分の時間割を1回数えるほうが、たぶん早く効きます。私の場合、それは6時間15分という形で目の前にありました。半年ぶん見落としていたことになります。


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