教室で英語の講義を聞き取れるようになっても、実習で初めて患者さんの前に立つと、また別の緊張があります。相手は体調の悪い方で、しかも自分は学生。何をどう切り出せばいいのか、最初は本当に言葉が出てきませんでした。
今回は、私が実習の中で書き留めてきた「患者さんへの声かけ」と「問診」の英語フレーズを、場面ごとに整理してみます。型として持っておくだけで、緊張していてもかなり楽になります。
🗂 目次
📌 この記事でわかること
- 実習で使う挨拶・自己紹介・主訴の聞き方
- 痛みの問診 OPQRST を英語フレーズごと覚える方法
- 診察中に不安を与えないための声かけの型
この記事の立場
私はまだ病院実習に行っていません。基礎課程の学生で、いま受けているのは解剖学や組織学の実習です。ここにまとめた表現は、教科書・授業・英語の医学教育向け資料から拾い、実習に備えて自分用に整理したものです。実地で使って確かめた記録ではありません。その前提で、下調べの材料として使ってください。実際に使った後で、通じなかったものや違う言い方が普通だったものを書き足していきます。
実習の英語は「丁寧さ」と「短さ」の両立が命
結論から言うと、実習で患者さんに使う英語は、教科書で習う長い丁寧表現よりも短くて配慮のある一文のほうがうまくいきます。体調が悪い方に長い文章を投げても、負担になるだけだからです。
以下は私が実際に使っている、あるいは指導医が使っているのを聞いて書き留めたフレーズです。声かけの型として持っておくと、緊張していても言葉が出てきます。
挨拶と自己紹介
最初のひとことで、その後のやりとりのしやすさがかなり変わります。医学生であることを最初に伝えるのは基本です。
Good morning. My name is …, and I’m a medical student.
グッドモーニング マイ ネイム イズ
おはようございます。私は医学生の〜です。
💡 student であることを最初に伝えるのが原則。省略しないほうが信頼されます。
Is it all right if I ask you a few questions?
イズ イット オールライト イフ アイ アスク ユー ア フュー クエスチョンズ
いくつかご質問してもよろしいですか?
💡 Can I 〜? よりも柔らかく、断る余地を残した聞き方です。
Please let me know if anything feels uncomfortable.
プリーズ レット ミー ノウ イフ エニシング フィールズ アンカンファタブル
つらいことがあれば教えてください。
💡 最初にこれを言っておくと、患者さんが途中で止めやすくなります。

主訴を聞く
問診の入り口です。日本語の「今日はどうされましたか」に当たる表現には、いくつかの言い方があります。
What brings you in today?
ワット ブリングス ユー イン トゥデイ
今日はどうされましたか?
💡 直訳は「何があなたを連れてきましたか」。最も一般的な導入です。
How can I help you today?
ハウ キャナイ ヘルプ ユー トゥデイ
今日はどうなさいましたか?
💡 少し柔らかい響き。外来の最初の一言としてよく使われます。
When did it start?
ウェン ディド イット スタート
いつから始まりましたか?
💡 発症時期の確認。次の OPQRST の O にあたります。
Has this happened before?
ハズ ディス ハプンド ビフォー
以前にも同じことがありましたか?
💡 既往の確認。現在完了形で「これまでに」を表します。
痛みを掘り下げる ― OPQRST を英語で
痛みの問診では OPQRST という型を使います。日本語では覚えていても、いざ英語で聞くとなると言葉が出てこないので、私は型ごと英語のフレーズで覚えるようにしました。
| 頭文字 | 聞くこと | 英語フレーズ |
|---|---|---|
| O — Onset | 発症のしかた | When did the pain start? Was it sudden or gradual? |
| P — Provocation / Palliation | 増悪・寛解因子 | Does anything make it better or worse? |
| Q — Quality | 痛みの性状 | Can you describe the pain? Is it sharp, dull, or burning? |
| R — Region / Radiation | 部位と放散 | Where exactly is the pain? Does it spread anywhere? |
| S — Severity | 強さ | On a scale of one to ten, how bad is the pain? |
| T — Time | 時間経過 | Is it constant, or does it come and go? |
特に sharp / dull / burning(鋭い/鈍い/焼けるような)は、患者さんに選んでもらう形にすると答えやすくなります。日本語でも「ズキズキですか、締めつけられる感じですか」と選択肢を出すのと同じ発想です。
診察中の声かけ
身体診察の最中は、これから何をするのかを一つひとつ伝えるのが基本です。黙って触れられるのは、誰でも不安だからです。
I’m going to listen to your chest. Take a deep breath, please.
アイム ゴーイング トゥ リスン トゥ ユア チェスト
胸の音を聴きます。大きく息を吸ってください。
💡 聴診の定番。息を吐かせるときは Breathe out slowly. です。
I’m going to press here — please tell me if it hurts.
アイム ゴーイング トゥ プレス ヒア
ここを押します。痛かったら言ってください。
💡 触診の前に必ず。press の代わりに touch も使えます。
Could you roll up your sleeve, please?
クッジュー ロール アップ ユア スリーヴ
袖をまくっていただけますか?
💡 採血や血圧測定の前に。roll up が「まくり上げる」。
Let me know if you feel dizzy at any point.
レット ミー ノウ イフ ユー フィール ディジー
途中でめまいがしたら教えてください。
💡 起立時の観察などで。dizzy = めまいがする。
Thank you for your time. The doctor will be with you shortly.
サンキュー フォー ユア タイム
ありがとうございました。まもなく医師が参ります。
💡 問診を終えて引き継ぐときの締めの一言です。

💡 Are you okay? と Are you comfortable? の違い
困っている人に思わず言いたくなる Are you okay? は、実は「大丈夫?(何かあった?)」と少し驚いたニュアンスを含みます。処置中の患者さんに繰り返すと、かえって不安にさせてしまうことがあります。
落ち着いて状態を確かめたいときは Are you comfortable?(楽な姿勢ですか)や Are you doing all right? のほうが穏やかに響きます。私は指導医がこれを使い分けているのを見て、言葉ひとつで空気が変わることを実感しました。
🧠 ミニクイズ:実習で言えますか?
Q1. 「今日はどうされましたか?」
直訳すると「何があなたをここへ連れてきましたか」。
Q2. 「痛みは10段階でどのくらいですか?」
on a scale of A to B で「AからBの尺度で」。
Q3. 「ここを押します。痛かったら言ってください」
Q4. 「大きく息を吸ってください」
吐かせるときは Breathe out slowly.。
Q5. 「痛みは持続的ですか、それとも波がありますか?」
come and go が「出たり消えたりする」。
※ 問題文をタップすると答えが開きます。
この表現集を、どう作って、どう検証するか
実地で使っていない以上、この表現集の信頼性は「どこから拾ったか」で決まります。そこを書いておきます。
| 出所 | 信頼度 | 扱い |
|---|---|---|
| 授業・教科書 | 高い | そのまま採用 |
| 医学教育向けの英語資料 | 中 | 複数で一致したものだけ採用 |
| 一般の英会話表現 | 低い | 採用しない(場面が違う) |
3行目を外しているのには理由があります。日常会話として自然でも、医療の場面では不適切な言い回しがあるからです。丁寧さの度合いや、相手に選択肢を残す言い方は、場面ごとに基準が違います。ここは自分で判断できないので、出所を限定するほうが安全だと考えました。
資料を疑う習慣は、別のところで身につきました。上の学年から受け継がれてきた解剖の過去問2,506問のうち、290問を1問ずつ検証したら16問(約5.5%)で答えが間違っていたのです。人の手が入った資料には一定の割合で誤りが混ざると分かってから、出所を書き残すようにしています。
検証の予定も決めてあります。実際に実習に出たら、通じなかった表現と、現場で普通に使われていた別の言い方を記録して、この記事に書き足します。そのときに一番価値があるのは、いまここに書いてある表現のうち使われなかったものだと思っています。
いまの実習で、先に練習できる部分
患者さんとのやりとりは、相手がいないので練習できません。ただ、その手前にある技能なら、いまの実習で練習できます。
私の学期は実習が145コマ・全体の67%で、そこでは英語で指示を受け、英語で質問に答えます。実技の試問で問われる構造のリストは304項目あり、形式は口頭です。
- 聞き取れなかったときに聞き返す ―― 沈黙せず、分からなかった部分を特定して聞き返す
- 短く答える ―― 結論を一言で言い、求められたら足す
- 分からないと言う ―― どこまで分かって、どこから分からないかを述べる
3つ目が一番大事だと考えています。臨床の場では、分からないことを分かったふりで通すのが最も危ないはずだからです。標本相手なら間違えても誰にも迷惑がかからないので、正直に言う練習の場としてはむしろ安全です。
もう一つ、外国語で学ぶ場合に固有の壁があります。綴りは書けるのに、声に出そうとすると出てこない。目で覚えた言葉は口が動きません。表現集を作るときは、最初の1回から声に出して読むようにしています。黙読で覚えてから音を足すと、同じことを2回学ぶことになります。
❓ よくある質問
Q1. 実習に行っていないのに表現集を作る意味はありますか?
Q2. 丸暗記すべきですか?
Q3. 国によって表現は違いますか?
Q4. 今の段階で優先すべき英語は何ですか?
※ 見出しをタップすると続きが開きます。
おわりに
- 患者さんへの英語は、長く丁寧により短く配慮のある一文で
- 医学生であることは最初に必ず伝える
- OPQRST は日本語の型ではなく英語のフレーズごと覚える
- 診察は「これから何をするか」を一つずつ伝えながら進める
英語のフレーズを覚えることは、単なる語学の勉強ではなく、目の前の人を安心させるための準備でもあると感じています。次回もこのシリーズで、実際に耳にした表現を紹介していきます。
※ 本記事は医学生である私の学習内容の共有であり、診断・治療の助言ではありません。実際の診療における表現や手順は、必ず所属機関の指導とガイドラインに従ってください。


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