対面での会話は何とかなっても、電話になった瞬間に英語が急に難しくなる。これは多くの学生が通る道だと思います。相手の表情が見えず、口の動きも読めず、しかも相手は忙しい。おまけに医療の電話は「今すぐ判断してほしい」という圧がかかります。
しかし電話の英語には救いがあります。型が決まっているのです。医療現場で広く使われている SBAR(Situation / Background / Assessment / Recommendation)という枠組みに沿って話せば、語彙が不足していても内容は確実に伝わります。この記事では、SBARの4段それぞれで使う定型表現と、電話特有の言い回しをまとめます。
🗂 目次
SBAR ― 電話の中身を4つの箱に分ける
SBARは、医療現場での情報伝達を構造化するための枠組みです。話す順番があらかじめ決まっているので、緊張していても内容が飛ばず、聞く側も次に何が来るか分かっている状態で聞けます。
| 段 | 英語 | 中身 | 目安の長さ |
|---|---|---|---|
| S | Situation | 誰が、今どうなっているか | 1〜2文 |
| B | Background | その患者さんの背景・経過 | 2〜3文 |
| A | Assessment | 自分はどう考えているか | 1〜2文 |
| R | Recommendation | 何をしてほしいか | 1文 |
この順番には理由があります。忙しい相手にとって最も必要なのは「今どうなっているか」であって、病歴の詳細ではありません。日本語で話すときも背景から入りがちですが、英語でそれをやると相手が要点を掴めないまま時間だけが過ぎます。
目安として、S から R まで合計30秒で言い切れる長さに収めるのが理想です。慣れないうちは、話す前にメモ用紙に4行だけ書き出してから電話をかけると、驚くほど落ち着いて話せます。

名乗りと導入 ― 最初の10秒で相手を正しい状態にする
電話の最初にやることは決まっています。自分が誰か、どこから、誰について、どれくらい急ぐか。この4つです。
Hello, this is Ai, a medical student on Ward 5. Am I speaking with Dr. Novak?
ハロー、ディス イズ アイ、ア メディカル スチューデント オン ウォード ファイヴ。アム アイ スピーキング ウィズ ドクター ノヴァク?
もしもし、5病棟の医学生の藍です。ノヴァク先生でいらっしゃいますか?
💡 電話では I am ではなく this is を使うのが自然。相手の確認まで一息で行う。
I’m calling about Mr. Horvath in bed 12.
アイム コーリング アバウト ミスター ホルヴァート イン ベッド トゥエルヴ。
12番ベッドのホルヴァートさんの件でお電話しました。
💡 I’m calling about 〜 は電話の万能導入。患者・病室まで一度に伝える。
Is now a good time, or should I call you back in ten minutes?
イズ ナウ ア グッド タイム、オア シュッド アイ コール ユー バック イン テン ミニッツ?
今お話しして大丈夫でしょうか。それとも10分後にかけ直しましょうか。
💡 急ぎでないときに挟む。相手の状況を尊重しつつ、かけ直す時刻を自分から提示するのが実務的。
This is urgent — I’ll keep it short.
ディス イズ アージェント ― アイル キープ イット ショート。
急ぎの件です。手短にお話しします。
💡 緊急のときは最初に緊急だと宣言する。相手の聞く姿勢が変わる。
S(Situation)― 今、何が起きているか
ここは1〜2文で、変化と数字だけを言います。解釈は A で述べるので、S では起きたことだけに絞ります。
Mr. Horvath’s blood pressure has dropped to 85 over 50 over the last hour.
ミスター ホルヴァーツ ブラッド プレッシャー ハズ ドロップト トゥ エイティファイヴ オーヴァー フィフティ オーヴァー ザ ラスト アワー。
ホルヴァートさんの血圧が、この1時間で85/50まで低下しました。
💡 血圧は 85 over 50 と読む。over the last hour のように時間の幅を必ず添える。
He has become increasingly short of breath since around 2 p.m.
ヒー ハズ ビカム インクリーシングリー ショート オブ ブレス スィンス アラウンド トゥー ピーエム。
午後2時頃から、息切れが徐々に強くなっています。
💡 increasingly(だんだん)で経過を、since 〜 で起点を示す。
Her temperature spiked to 39.2 degrees about 20 minutes ago.
ハー テンパラチャー スパイクト トゥ サーティナイン ポイント トゥー ディグリーズ アバウト トゥエンティ ミニッツ アゴー。
20分ほど前に、体温が39.2度まで急上昇しました。
💡 spike は「急に跳ね上がる」。徐々に上がったなら has been rising を使い分ける。
He is alert but looks pale and clammy.
ヒー イズ アラート バット ルックス ペイル アンド クラミー。
意識は清明ですが、顔色が悪く、冷や汗をかいています。
💡 clammy(冷たく湿った)は電話で頻出。alert は意識清明の定型語。
B(Background)― 患者さんの背景
背景は関連するものだけを2〜3文で。全病歴を読み上げる必要はなく、「今の状況を理解するのに必要な情報」に絞ります。
He’s a 68-year-old man admitted three days ago for pneumonia.
ヒーズ ア スィクスティエイト イヤー オールド マン アドミテッド スリー デイズ アゴー フォー ニューモニア。
68歳の男性で、3日前に肺炎で入院しました。
💡 年齢 – 性別 – 入院日 – 主病名の順が定番。admitted for 〜 で入院理由を示す。
He has a history of heart failure and type 2 diabetes.
ヒー ハズ ア ヒストリー オブ ハート フェイリャー アンド タイプ トゥー ダイアビーティーズ。
心不全と2型糖尿病の既往があります。
💡 a history of 〜 は既往歴の標準表現。He is known to have 〜 も同義。
He’s currently on intravenous antibiotics, day three.
ヒーズ カレントリー オン イントラヴィーナス アンティバイオティクス、デイ スリー。
現在、静注抗菌薬を3日目まで投与中です。
💡 投薬中は on 〜。day three のように何日目かを添えると判断材料になる。
Nothing else has changed since this morning’s round.
ナッスィング エルス ハズ チェインジド スィンス ディス モーニングズ ラウンド。
今朝の回診以降、ほかに変わったことはありません。
💡 変化がないことを明示するのも重要な情報。省略すると相手が確認に時間を使う。
A(Assessment)― 自分の見立て
学生の立場では、ここが一番言いにくい部分です。しかし「分かりません」で終えるより、確信の度合いを添えて述べるほうが有用です。断定を避ける言い方が用意されています。
I’m concerned that he may be developing sepsis.
アイム コンサーンド ザット ヒー メイ ビー ディヴェロッピング セプスィス。
敗血症を起こしつつあるのではないかと懸念しています。
💡 I’m concerned that 〜 は学生でも使いやすい最重要フレーズ。断定せずに危機感を伝えられる。
I’m not sure what’s causing this, but the trend is worrying me.
アイム ノット シュア ワッツ コーズィング ディス、バット ザ トレンド イズ ワリイング ミー。
原因ははっきり分かりませんが、この経過が気がかりです。
💡 見立てが立たないときの正直な言い方。分からないことと、心配であることは別々に伝える。
It could be fluid overload, but I can’t rule out a pulmonary embolism.
イット クッド ビー フルーイド オーヴァーロード、バット アイ カント ルール アウト ア パルモナリー エンボリズム。
溢水の可能性がありますが、肺塞栓症も否定できません。
💡 rule out(除外する)は必須動詞。I can’t rule out 〜 で「否定できない」。
He looks worse than he did an hour ago.
ヒー ルックス ワース ザン ヒー ディド アン アワー アゴー。
1時間前と比べて、状態が悪くなっているように見えます。
💡 検査値を出せなくても比較で伝えることはできる。電話で最も説得力のある表現の一つ。

R(Recommendation)― 何をしてほしいか
最後に依頼を1文で言い切ります。ここを曖昧にすると、電話の目的が達成されません。「来てほしいのか」「指示がほしいのか」「報告だけなのか」をはっきりさせます。
Could you come and see him, please?
クッド ユー カム アンド スィー ヒム、プリーズ?
診に来ていただけますか。
💡 最も基本の依頼。Could you 〜, please? は丁寧さと明確さのバランスが良い。
How soon can you get here?
ハウ スーン キャン ユー ゲット ヒア?
どのくらいで来ていただけますか。
💡 緊急時に。「来られますか」ではなく「いつ来られますか」と聞くと時間が確定する。
Would you like me to start oxygen in the meantime?
ウッド ユー ライク ミー トゥ スタート オキシジェン イン ザ ミーンタイム?
それまでの間、酸素を開始しておきましょうか。
💡 Would you like me to 〜? は「自分が動きましょうか」と申し出る形。学生に安全な言い方。
I just wanted to let you know — no action needed for now.
アイ ジャスト ウォンティッド トゥ レット ユー ノウ ― ノー アクション ニーデッド フォー ナウ。
ご報告までです。今のところ対応は不要です。
💡 報告だけの電話であることを明示する。相手を無駄に身構えさせないための一言。
聞き取れなかったときの言い方と、締め方
電話で最も重要なのは、実は聞き返す技術です。分からないまま進めることが、そのまま安全上の問題になります。聞き返しは失礼ではなく、手続きです。
Sorry, the line is breaking up. Could you say that again?
ソーリー、ザ ライン イズ ブレイキング アップ。クッド ユー セイ ザット アゲイン?
すみません、電波が悪いようです。もう一度お願いできますか。
💡 the line is breaking up(電波が途切れる)を使うと、聞き取れない理由を回線のせいにできる。
Sorry, could you spell that for me?
ソーリー、クッド ユー スペル ザット フォー ミー?
すみません、綴りを教えていただけますか。
💡 薬剤名・人名で必須。スペルを聞くのは現地の医療者同士でも日常的にやっている。
Let me read that back to you: 500 milligrams, intravenously, every eight hours.
レット ミー リード ザット バック トゥ ユー: ファイヴ ハンドレッド ミリグラムズ、イントラヴィーナスリー、エヴリ エイト アワーズ。
復唱します。500ミリグラム、静注、8時間ごとですね。
💡 read-back は口頭指示の標準的な安全確認。必ず数字・経路・間隔の3点を復唱する。
Just to confirm — you’d like me to hold the next dose?
ジャスト トゥ コンファーム ― ユード ライク ミー トゥ ホールド ザ ネクスト ドウズ?
確認ですが、次の投与は差し控えるということでよろしいですか。
💡 Just to confirm 〜 は指示内容の確認。hold(中止ではなく差し控え)は頻出。
Thank you. I’ll document this and call you if anything changes.
サンキュー。アイル ドキュメント ディス アンド コール ユー イフ エニスィング チェインジズ。
ありがとうございます。記録しておき、変化があればまたご連絡します。
💡 締めの定型。記録することと再連絡の条件を伝えて終わるのが望ましい。
💡 SBAR はどこから来たのか
SBAR はもともと米海軍の原子力潜水艦で使われていた報告様式が原型と言われています。極度に限られた時間で、階級の違う相手に、抜けなく状況を伝える必要があった環境で磨かれた型です。
それが1990年代以降に医療の世界へ持ち込まれ、いまでは各国の病院で標準的な伝達様式として定着しました。階層のある組織で、下の立場から上の立場へ懸念を伝えるという点で、状況がよく似ていたからです。
だから A(Assessment)の段があることには意味があります。立場が下でも見立てを述べてよい、むしろ述べるべきだという設計思想が、この型そのものに埋め込まれています。学生が「私が言っていいのだろうか」と迷う場面こそ、SBAR が最も役に立つ場面です。
🧠 確認クイズ
Q1. 「1時間で血圧が85/50まで下がりました」を SBAR の S として英語で言うと?
血圧の / は over と読みます。over the last hour のように時間の幅を必ず添えるのがポイントです。
Q2. 断定を避けつつ危機感を伝える、A の最重要フレーズは?
「〜ではないかと懸念しています」。学生の立場でも使えて、しかも相手に緊急度が伝わる表現です。I think it is 〜 と断定するより安全で、I don’t know より有用です。
Q3. 口頭で薬剤の指示を受けたとき、必ずやるべきことは?
Q4. 「診に来ていただけますか」と「どのくらいで来ていただけますか」を使い分ける基準は?
Q5. 報告だけで対応が不要なとき、どう伝えると親切ですか?
電話がかかってきた時点で相手は身構えます。対応が不要であることを先に伝えることで、相手の負担を減らせます。
※ 見出しをタップすると続きが開きます。
要点の整理
- 電話は S(状況)→ B(背景)→ A(見立て)→ R(依頼) の順で、合計30秒を目安に
- 最初の10秒で名前・所属・患者・緊急度を出す
- A では I’m concerned that 〜 を使えば、断定せずに危機感を伝えられる
- R は必ず1文で言い切る。来てほしいのか、指示がほしいのか、報告だけなのか
- 復唱(read-back)は手続き。用量・経路・間隔の3点を必ず繰り返す
電話の英語が難しいのは、語彙の問題であるより先に構造の問題です。話す順番が決まっていないから、緊張したときに崩れる。逆に言えば、SBARという骨組みを持っていれば、多少言葉が出てこなくても内容は届きます。まずは受話器を取る前に、メモ用紙に S / B / A / R の4文字を書いて、それぞれ1行ずつ埋めてみてください。それだけで、話し始めの落ち着き方がまるで違います。
※ 本記事は語学学習を目的とした表現集であり、臨床上の判断基準や手順を示すものではありません。報告の様式・使用する用語・学生に許容される行為の範囲は、施設および国によって異なります。実習にあたっては必ず各施設の規定と指導者の指示に従ってください。


コメント