筋肉のラテン語用語集 ― 名前は部品でできている。混ざるのは3つの型だけ

ラテン語用語集

筋肉の名前は、骨より覚えることが多いです。骨は「これは何か」に答えられればいいのですが、筋肉は名前に加えて、起始・停止・支配神経・作用まで問われます。1つの筋につき、覚える項目が実質5つになります。

ただ、実習と過去問をやってみて、落とし方には偏りがあることが分かりました。手元の解剖の過去問2,506問のうち290問を1問ずつ検証したところ、16問で答えが間違っていたのですが、その誤りの型で最も多かったのが「名前が似た別物の取り違え」だったのです。

そしてその多くが筋の名前でした。語幹が同じで行き先だけ違うもの。内側と外側で対になっているもの。解答を作った先輩が間違えた場所は、そのまま自分が間違える場所です。

この記事は筋肉のラテン語用語集ですが、同時に「どこで混ざるか」を先に潰すための整理でもあります。用語表は後半にあります。

筋名は部品でできている ― 読めれば意味が取れる

筋肉の名前は、いくつかの決まった部品の組み合わせでできています。この構造が分かると、初めて見る筋名でも意味の見当がつきます。

部品が表すもの例読み取れること
形deltoideus / trapezius見た目の輪郭。三角形、台形
数biceps / triceps / quadriceps頭(起始)がいくつあるか
位置externus / internus、major / minor外か内か、大きいか小さいか
動きflexor / extensor、adductor / abductor作用がそのまま名前に入っている
起始と停止sternocleidomastoideus胸骨・鎖骨から乳様突起へ、と経路が入っている

4行目が特にありがたい部分です。作用を表す部品が入っている筋は、名前を読めば作用が分かります。覚える5項目のうち1つが、名前からただで手に入る。

5行目のように、起始と停止が名前に埋め込まれているものもあります。長くて覚えにくく見えますが、分解すると情報量が多いぶん得です。長い名前ほど中身が詰まっている、と考えるようになってから抵抗が減りました。


混ざるのは3つの型 ― 実際の誤答から

過去問の答えを検証したときに見つかった誤りを整理すると、筋に関するものは3つの型に収まりました。これは自分が間違える場所の予告でもあります。

型どういうものか対処
語幹が同じで行き先が違う同じ起始から出て、停止だけ別の筋語幹ではなく後半で区別すると決めておく
内と外の対externus と internus のように位置だけ違う2つ並べて、支配神経の違いまで一緒に覚える
階層の取り違え「この群に含まれるのはどれか」で外れる群の定義を先に言えるようにする

1つ目が一番多かったです。前半が同じなので、目が前半だけで判断してしまう。読むときに意識して後半を見る、というだけで正答率が変わりました。

2つ目については、位置の違いが支配神経の違いとセットになっていることが多いので、そこまで一緒に覚えると区別が固定されます。名前だけで区別しようとすると、試験中に迷います。

3つ目は名前の問題ではなく分類の問題です。「その群とは何か」を自分の言葉で言えるかどうかで、答えが変わります。個々の筋を覚える前に、群の定義を確認するようにしました。


5点セットで覚えると、量は増えるが取りこぼしが減る

筋は「名前・起始・停止・支配神経・作用」の5点で問われます。最初は名前だけ覚えて、残りは後から足そうとしていました。これは失敗でした。

理由は2つあります。1つは、後から足そうとするともう一度その筋を思い出す作業が必要になること。同じ筋を2回学ぶことになり、合計では長くかかります。

もう1つは、5点が互いに支え合っていることです。作用は名前から取れることがあり、支配神経は位置と対応し、起始と停止が分かれば作用は推測できます。ばらばらに覚えると5倍の量になりますが、まとめて扱うと相互のヒントとして働きます。

実習の予習で使っているのは、この5点を1行に並べた形です。1筋につき1行。行が埋まらない筋が、そのまま弱点のリストになります。

全身の筋肉の解剖図

体幹の筋肉

ここから用語表です。体幹は形を表す部品が多く出てくる範囲です。

ラテン語読み日本語語源・メモ
trapeziusトラペツィウス僧帽筋ギリシャ語 trapeza(机)から「台形」。日本語名は形が僧侶の頭巾に似ることから
latissimus dorsiラティッシムス・ドルシ広背筋latus(広い)の最上級+dorsum(背中)=「背中で最も広い(筋)」
pectoralis majorペクトラーリス・マヨル大胸筋pectus(胸)+major(大きい方)
rectus abdominisレクトゥス・アブドミニス腹直筋rectus(まっすぐな)+abdomen(腹)
obliquus externus abdominisオブリークヴス・エクステルヌス・アブドミニス外腹斜筋obliquus(斜めの)+externus(外側の)

上肢の筋肉

上肢は数を表す部品(biceps・triceps)と、動きを表す部品が集中します。

ラテン語読み日本語語源・メモ
deltoideusデルトイデウス三角筋ギリシャ文字Δ(デルタ)の形から
biceps brachiiビツェプス・ブラキイ上腕二頭筋bi(2)+caput(頭)+brachium(上腕)=「2つの頭を持つ上腕の筋」
triceps brachiiトリツェプス・ブラキイ上腕三頭筋tri(3)+caput(頭)
brachialisブラキアーリス上腕筋brachium(上腕)の形容詞形。シンプルに「上腕の(筋)」

下肢の筋肉

下肢は大小の対(major / minor、maximus など)が多く、前述の「内と外の対」も集中する範囲です。

ラテン語読み日本語語源・メモ
gluteus maximusグルテウス・マキシムス大殿筋ギリシャ語 gloutos(尻)+maximus(最大の)
quadriceps femorisクヴァドリツェプス・フェモリス大腿四頭筋quadri(4)+caput(頭)+femur(大腿骨)
biceps femorisビツェプス・フェモリス大腿二頭筋bi(2)+caput(頭)+femur
sartoriusサルトリウス縫工筋ラテン語 sartor(仕立て屋)から。あぐらをかく仕立て屋の座り方に使う筋肉
gastrocnemiusガストロクネミウス腓腹筋ギリシャ語 gaster(腹)+kneme(すね)=「すねの腹(のような筋)」
soleusソレウスヒラメ筋ラテン語 solea(ヒラメ・サンダル)。魚のヒラメに形が似ることから

実習では、動かして確認する

筋には、骨には無い利点があります。作用が名前に入っているものは、自分の体で確認できます。

私の学期では、解剖の実習が40コマ・60.0時間あります。実技で問われる構造のリストは304項目あるので、単純に割ると1構造あたり12分程度です。実習中に一から覚える時間はありません。

そこで、予習の段階でやっているのがこれです。

  • 作用が名前に入っている筋は、その動きを自分でやってみる(曲げる、伸ばす、寄せる、開く)
  • 動かしながら、起始と停止の位置を自分の体で指す
  • そのうえで、支配神経を口に出す

机の上で表を眺めるより、はるかに残りました。動きと名前が結びつくと、標本の前でも名前が出てきます。前述のとおり、実技試験は「実物から名前を引く」方向なので、この結びつきが直接効きます。

この確認は、昼の空き時間に歩ける場所でやっています。座って黙読していると、読めているのか思い出せているのかの区別がつかなくなるからです。体を動かせる場所を予習の場所に選ぶのは、筋に関しては特に理にかなっていると感じます。

❓ よくある質問

Q1. 全部の筋を5点セットで覚えるのは無理では?
全部は無理です。私は出題範囲のリストに載っているものに絞っています。範囲は項目単位で配られるので、そこを数えて配分します。範囲外まで広げると終わりが見えなくなり、結局どれも中途半端になりました。
Q2. 名前の部品を覚えるのに、ラテン語文法は要りますか?
体系的な文法までは要らないと感じています。ただ、形容詞の語尾が修飾する名詞の性で変わることだけは知っておくと楽です。同じ意味の語が -us / -a / -um と姿を変えるので、知らないと別の語に見えます。
Q3. 過去問の答えが間違っていたら気づけますか?
その場では分かりません。私は「自分の答えと食い違ったが、資料のほうが怪しい」と感じた問題に別の印を付けて、まとめて教科書で確認する時間を取っています。特に、名前が似た筋が選択肢に並んでいる問題は要注意です。誤りの型で一番多かったのがそこでした。
Q4. 日本語の筋名も覚えるべきですか?
私は同時に覚えています。授業と試験はラテン語と英語ですが、卒業後に日本の国家試験を受ける予定なので、日本語名が要るからです。後から日本語名だけを足すと「構造は分かるのに名前が出てこない」状態になり、量が全部ぶん残ります。名札を2枚付けるだけなら、負担はほとんど増えません。

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要点の整理

  • 筋名は形・数・位置・動き・経路の部品でできている。読めれば意味が取れる
  • 作用が名前に入っている筋は、5項目のうち1つが名前からただで手に入る
  • 過去問の誤りで最も多かったのは「名前が似た別物の取り違え」。混ざるのは3つの型
  • 語幹が同じものは意識して後半を見る。内外の対は支配神経ごと覚える
  • 5点セットで一度に覚える。後から足すと同じ筋を2回学ぶことになる
  • 実技は実物から名前を引く方向。作用のある筋は自分の体で動かして確認する

筋肉の用語は量が多く、最初はただ長いリストに見えます。ただ、名前が部品でできていると分かると、リストではなく規則になります。規則なら、初めて見るものにも当てはめられます。

そして、間違える場所には偏りがあります。過去問の答えを検証したときに見えたその偏りは、自分がこれから間違える場所の予告でした。先に知っておけるのは、けっこう大きな利点だと思っています。

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