カルテをSOAP形式で書く、という話は授業で習います。ただ、私はまだ病棟でカルテを書いたことがありません。基礎課程の学生で、いま受けているのは解剖学や組織学の実習です。
それでもこの記事を書いているのは、SOAPのうち O と A の区別が、いまの実習で毎週やっていることと同じ構造だと気づいたからです。見えたことと、そこから考えたことを分けて述べる。これは顕微鏡の前でもやっています。
この記事の立場
病棟でカルテを書いた経験はありません。ここにある表現は、授業・教科書・医学教育向けの英語資料から拾って整理したもので、実地で使って確かめた記録ではありません。下調べの材料として使ってください。実際に書くようになったら、通じなかったものや違う書き方が普通だったものを書き足します。
🗂 目次
カルテ英語は文章力より「型」の暗記で書ける
結論から言うと、カルテ英語は凝った文章力がなくても、SOAP(Subjective・Objective・Assessment・Plan)という型に単語を差し替えて使い回すだけで、実習の記録は十分に書けるようになります。
病棟実習が始まると、問診や声かけだけでなく「カルテに何をどう書くか」でもつまずきます。日本語の感覚で書こうとすると、英語カルテ特有の言い回しに全然合わないことがよくあります。今回はSOAPの型を軸に、実習でよく使う表現をフレーズカードでまとめます。
S(Subjective・主観情報)
患者本人の訴えを書く部分です。「本人が言った内容」であることが伝わる動詞を選ぶのがポイントです。
Patient reports intermittent chest pain for 3 days.
ペイシェント リポーツ インターミテント チェスト ペイン フォー スリー デイズ
患者は3日前からの間欠的な胸痛を訴える。
💡 「訴える」は complain of も使うが、reports の方が中立的でカルテ向き
No known drug allergies (NKDA).
ノー ノウン ドラッグ アラジーズ
既知の薬物アレルギーなし。
💡 NKDA は頻出略語。カルテにそのまま書かれることが多い
Denies fever, nausea, or vomiting.
ディナイズ フィーヴァー、ノージア、オア ヴォミティング
発熱・嘔気・嘔吐は否定。
💡 denies は「本人が否定している」というニュアンスの定番動詞
O(Objective・客観情報)
バイタルや診察所見など、自分が観察・測定した内容を書く部分です。
Vitals: BP 128/76, HR 78, RR 16, T 36.8°C.
ヴァイタルズ:ビーピー、エイチアール、アールアール、ティー
バイタル:血圧128/76、脈拍78、呼吸数16、体温36.8度。
Alert and oriented x3.
アラート アンド オリエンティッド タイムズ スリー
意識清明、見当識(人・場所・時間)すべて保たれている。
💡 oriented x3 は定型表現。x3 は人・場所・時間の3項目という意味
Abdomen soft, non-tender, bowel sounds normal.
アブドメン ソフト、ノンテンダー、バウエル サウンズ ノーマル
腹部は軟らかく圧痛なし、腸蠕動音は正常。

A/P(評価・計画)
自分の評価と、これからどうするかを書く部分です。
Impression: likely viral gastroenteritis.
インプレッション:ライクリー ヴァイラル ガストロエンテライティス
評価:ウイルス性胃腸炎の疑い。
💡 impression は日常語の「印象」に近いが、カルテでは正式な評価用語として使う
Plan: continue IV fluids, reassess in 4 hours.
プラン:コンティニュー アイヴィー フルーイズ、リアセス イン フォー アワーズ
計画:点滴継続、4時間後に再評価。
| 略語 | フルスペル | 意味 |
|---|---|---|
| NKDA | no known drug allergies | 既知の薬物アレルギーなし |
| BP | blood pressure | 血圧 |
| HR | heart rate | 心拍数 |
| RR | respiratory rate | 呼吸数 |
| Dx | diagnosis | 診断 |
| Hx | history | 既往歴 |
| Rx | prescription | 処方 |
💡 処方箋の「Rx」はラテン語の命令形だった
処方を表す Rx は、ラテン語 recipere(取る・受け取る)の命令形 recipe(取れ)の略だと言われています。かつて処方箋の一番上に「Recipe(以下を調合せよ)」と書いていた名残が、そのまま Rx という記号として今も使われています。
カルテの略語は便利ですが、施設や科によって使う範囲が違います。慣れないうちはフルスペルで書き、指導医の書き方に合わせていくのが無難です。
所見と解釈を分ける練習は、顕微鏡の前でもできる
SOAPで一番つまずくと言われるのが、O(客観)とA(評価)の切り分けです。見えたことと、そこから考えたことを混ぜないという原則です。
これは患者さんを相手にしなくても練習できます。組織学の実習で、顕微鏡で見えたものを述べる場面がまさに同じ構造だからです。
| 区分 | カルテでは | 組織学の実習では |
|---|---|---|
| 見えたこと | O(所見・測定値) | 標本に何が見えるか |
| そこから考えたこと | A(評価) | それが何の組織か、なぜそう言えるか |
やってみると、これが難しい。見た瞬間に解釈が混ざります。「〜が見えます」と言うべきところで「〜だと思います」と言ってしまう。逆に、解釈を求められているのに見たままだけを述べてしまう。
いま意識しているのは、述べる前に「これは所見か、解釈か」を自分で仕分けることです。標本相手なら間違えても誰にも迷惑がかからないので、練習の場としてはむしろ安全だと考えています。
この切り分けができていないと、SOAPの型を覚えても中身が入りません。型は形式の話で、O と A の区別は思考の話です。順番としては、後者が先だと思っています。
A と P を、いまの私が書けない理由
正直に書いておくと、この記事は S と O に厚く、A と P が薄いです。意図的にそうしています。
S(主観情報)と O(客観情報)は、聞いたこと・見たことを書き取る作業です。型と語彙が分かれば、形にはなります。
一方、A(評価)と P(計画)は違います。これは臨床判断そのものです。鑑別を挙げ、可能性を重みづけし、次に何をするかを決める。基礎課程の学生が、表現の型だけ知っていて書けるものではありません。
| 項目 | 必要なもの | いま用意できるか |
|---|---|---|
| S・O | 型と語彙、書き取る技術 | できる |
| A・P | 臨床判断と、それを支える知識 | できない |
できない部分を、それらしい例文で埋めることはしません。表現だけ整えた評価文は、書けるようになったつもりにさせるぶん有害だと思うからです。ここは臨床の科目を学んでから書き足します。
その場限りの情報を、短く残す技術
カルテを書く技術のうち、いまの実習でそのまま練習できる部分がもう一つあります。記録の取り方です。
講義のメモと実習のメモは、性質が違います。講義はスライドが残りますが、実習で言われたことは二度と手に入りません。しかも手を動かしながら聞くので、書く時間がありません。
私がやっているのは2段階です。
- 実習中は単語だけ書く ―― 文にしようとすると、書いている間に次が進む
- 終わった直後に文にする ―― 記憶が鮮明なうちに補う
「終わった直後」を確保できているのには理由があります。私の時間割では、実技の試問が終わった直後に校舎を移動する45分の空きが入っているのです。もともと何もしていなかった時間なので、ここを記録の枠に充てています。
この2段階は、そのままカルテの書き方に持ち越せるはずだと考えています。その場で完成させようとせず、後から整える前提で断片を確保する。少なくとも、書き取りの負荷はかなり下がりました。
略語は「読める」と「書ける」を分けて扱う
カルテには略語が多く出てきます。ここで一つ、いまの段階でも決めておけることがあります。読めるようにする略語と、自分で書いてよい略語を分けることです。
| 扱い | 方針 |
|---|---|
| 読めるようにする | 目にする略語は広く。読めないと記録が追えない |
| 自分で書く | 実習先で使われているものだけ。勝手に増やさない |
後者を絞るのは、略語は施設や国によって使い方が違うと聞くからです。同じ字面で別の意味になるものもあります。読み違えれば記録の意味が変わるので、書く側は保守的にしておくほうが安全だと考えました。
この「読む用と書く用を分ける」考え方は、いまの実習でも使っています。ラテン語の解剖用語も、目にする綴りは広く、自分で使うのは授業で確認したものだけにしています。人の手が入った資料には誤りが混ざるので、出所が曖昧なものを自分の記録に持ち込まない、という方針です。
よくある質問
SOAPって全科共通?
基本の型はどの科でも共通ですが、Oで重視するポイント(バイタル中心か、専門的な診察所見中心かなど)は科によって変わります。
略語はどこまで使っていい?
施設のスタイルに従うのが大前提です。初心者のうちはフルスペルで書き、指導医やカルテのテンプレートに合わせていくのが無難です。
主観と客観の境界が曖昧なときは?
患者本人の発言はS、自分が測定・観察した所見はOと機械的に分けると迷いにくくなります。
まとめ
- カルテ英語はSOAPの型を覚えれば書ける
- 略語は施設・指導医の書き方に合わせるのが無難
- Rxの語源はラテン語recipe(取れ)の命令形
カルテ英語は特別な文章力がいるわけではなく、型に単語を当てはめる作業がほとんどです。まずはこの記事のフレーズをそのまま使えるところから、少しずつ自分の言葉に置き換えていけば十分です。
この記事は学習中の一学生の記録であり、実際の臨床記録の書式・表現は施設や科によって異なります。実習先の指導・規定に従ってください。
この記事を書いていて、自分でも整理がついたことがあります。カルテを書く技術は、1つの塊ではなく、性質の違う3つに分かれているということです。
- 型と語彙 ―― 調べれば分かる。いま用意できる
- 所見と解釈を分ける思考 ―― 患者さんが相手でなくても練習できる。いまやっている
- 臨床判断(A・P) ―― 行かないと身につかない。いまは準備できない
3つ目を「準備できない」と認めるのが大事だと思っています。できない部分について記事を読み込むと、準備した気分になります。実際には何も進んでいないのに、不安だけが下がる。それが一番よくない状態です。
だからこの記事は、1つ目と2つ目に絞ってあります。実際に病棟で書くようになったら、この見立てが当たっていたかを書き足します。外していた部分こそ、書く価値のある情報になるはずです。


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