筋トレを始めて数ヶ月経った頃、自分の記録アプリを4週間分さかのぼって眺めてみて、正直かなり気まずい気持ちになりました。上半身の種目が12回に対して、下半身は4回。直近3回のセッションでは、背中の種目と肩の種目が丸ごと消えていました。しかもその前後で15日間、ジムに一度も行っていない空白がありました。
その15日を、私はずっと「試験が近くて忙しかったから」だと思っていました。でも記録を時系列で並べると順番が逆でした。忙しくなる前の週に、全部のセットを限界まで追い込んでいたんです。つまり止まった原因は時間ではなく、「次に行くのがしんどい状態」を自分で作っていたことでした。
医学部の生活はセメスターの中で負荷が大きく波打ちます。試験週、実習週、レポートの締切が重なる週。その波の中で筋トレを続けるには、調子がいい日に何ができるかより、崩れた後に戻れるかどうかで設計を決めたほうがいい。この記事では、私が実際にやってみて「これは残った」と言える組み立て方をまとめます。

空白は「忙しさ」ではなく、その前の1回から始まっている
トレーニングが途切れるとき、私たちは原因をカレンダーのせいにしがちです。でも記録を見返すと、途切れる直前のセッションにはだいたい共通の特徴があります。
- 種目数がいつもより多い(10種目やっている、など)
- 全セットが限界まで、あるいは限界の1歩手前まで行っている
- そのセッションだけ所要時間が極端に長い
この3つが揃った翌週は、体感としてジムのハードルが跳ね上がります。筋肉痛が長引き、階段が辛く、「今日は回復日にしよう」が2日、3日と伸びる。そして4日空いた頃には、行かないことのほうが日常になっています。
ここで大事なのは、1回の質を上げすぎた代償が、次の1回ではなく2週間後に来るという時間差です。その日は達成感があるので、自分では失敗した気がしません。だから何度でも繰り返します。私はこれを3サイクルほど繰り返して、ようやく「追い込みは目的ではなく手段だ」と腹落ちしました。

限界の1歩手前で止める、を数字で決めておく
「ほどほどにやる」は守れません。ほどほどの位置が毎回変わるからです。そこで私は RPE(自覚的な運動強度)という物差しを使って、止める位置を先に数字で決めています。考え方は単純で、そのセットの後に「あと何回上げられたか」で強度を言い表すというものです。
| 体感 | RPE | あと何回上げられそうか | 使いどころ |
|---|---|---|---|
| 余裕がある | 5〜6 | 4回以上 | ウォームアップ。フォームの確認だけ |
| 効いてきた | 7 | 3回 | フォームを直したい日、疲れが残っている日 |
| きついが動きは崩れない | 8 | 2回 | 平常時はここで止める |
| 最後の1回でフォームが崩れる | 9 | 1回 | 記録更新を狙う日だけ。月に数回 |
| 上がらなくなるまでやる | 10 | 0回 | 原則やらない。翌週を削るだけ |
私の場合、平常時の上限をRPE8に固定してから、まずセッションの間隔が安定しました。感覚的には「まだ2回いけるのに置く」ので最初は物足りません。けれど週2回を8週間続けたときの合計の仕事量は、限界まで追い込んで2週に1回になった場合よりはっきり多くなります。伸びるのは1回の強度ではなく、強度 × 継続できた回数のほうです。
例外は作っていいと思います。私はベンチプレスだけは月に1〜2回、RPE9まで踏み込む日を作っています。ただしその日は他の種目をRPE7に落とす。同じ日に全種目を攻めない、というのが唯一のルールです。
1回4種目、週2回。メニューは固定して考えない
その日ジムに着いてから「今日は何をやろう」と考えると、だいたい得意な種目に流れます。私の場合はベンチプレスとアームカール。鏡に映る種目です。だから種目は毎回選ばず、AとBの2パターンを固定して、交互に回すだけにしました。
| 日 | ねらい | 種目(この順番でやる) | セット数 |
|---|---|---|---|
| A | 押す+脚 | ① スクワット系(ハックスクワットなど) ② ルーマニアンデッドリフト ③ ベンチプレス ④ インクラインプレス | 3 2 3 2 |
| B | 引く+肩 | ① 懸垂(またはラットプルダウン) ② ロー(ケーブル or マシン) ③ サイドレイズ ④ インクラインダンベルカール | 3 3 3 2 |
種目の順番には意味があります。「消えやすいものを先にやる」という一点だけで並べています。私の記録で消えていたのは脚・背中・肩の中部でした。だからA日は脚から、B日は引く種目から始める。最後に残ったベンチプレスやカールは、疲れていても勝手にやりたくなるので、後ろに置いても消えません。
1回4種目という制限も意図的です。少なく感じますが、10種目やった日の翌週が空白になるより、4種目で毎週2回入るほうが結果的に総量が多くなります。時間にして45〜60分。授業の後に寄っても、夕食と睡眠のリズムを壊さない範囲に収まります(睡眠を削ってまで行くのは本末転倒です。この話は医学生の睡眠設計に書きました)。

抜け落ちるのは、いつも同じ部位
これは私だけの癖ではないと思っています。トレーニングが縮退していくとき、残るのは決まって①自分から見える部位 ②数字が伸びやすい種目です。胸、腕、そして前から見える肩の前部。逆に真っ先に消えるのは、背中と肩の中部と脚です。
- 背中 ― 自分の目で確認できないので、変化を感じにくい
- 肩の中部(三角筋の中部) ― 扱える重量が小さく、記録が伸びた実感を得にくい
- 脚 ― きつい割に見た目の変化が遅く、翌日の生活に響く
ところが、体のシルエットを決めているのはまさにこの3つです。肩幅と背中の広がりで上半身の輪郭が決まり、脚は全身のバランスを決める。つまり「消えやすい部位」と「目標に直結する部位」がほぼ完全に一致しているのが厄介なところです。
対策は精神論ではなく順番です。守りたい部位を最初に置く。そして、サイドレイズのように軽い重量でやる種目は、回数を増やす方向に逃げないこと。私は6kgで40回のような回し方をしていた時期がありますが、あれは重量が軽すぎて刺激が入る前に持久力の練習になっていました。12〜15回で止まる重さを選ぶほうが、時間も短くて済みます。

行けない日のための「床」を決めておく
試験週は本当に時間がありません。ここで「今週は無理だから来週から」と考えると、来週も同じ理由で消えます。だから私は、ゼロにしない代わりの最低ライン(床)を先に決めています。
| 使える時間 | やること | 目的 |
|---|---|---|
| 60分 | AまたはBのフルセット(4種目) | 進める |
| 25分 | その日の①と③だけ、各2セット | 維持する |
| 10分 | 自重で1種目(腕立てか懸垂)+歩いて帰る | 習慣を切らさない |
| 0分 | 就寝時刻だけ守る | 翌日を守る |
この表のポイントは、一番下に「0分」の行があることです。何もできない日を「失敗」ではなく設計の一部として先に認めておくと、翌日に戻れます。逆に「毎日やる」と決めた計画は、1日崩れた時点で全部が崩れます。
ジムに行く時間そのものが取れない週は、部屋で完結する形に置き換えます。道具なしの短時間メニューは筋トレ初心者向け「最短15分」自重ルーティンにまとめてあるので、この記事のB日を丸ごとそちらに差し替える、という使い方でも構いません。大事なのは同じ種目をやることではなく、間隔を空けすぎないことです。
ちなみに10分の行を歩くことにしているのは、それ自体が勉強の効率に効くからです。この話は勉強の質を上げる有酸素運動の設計に詳しく書きました。体調そのものを崩した日の戻し方は体調を崩した日の立て直し方のほうが役に立つと思います。
記録は「伸ばすため」ではなく「抜けを見つけるため」に取る
記録アプリを使っている人は多いと思いますが、多くの場合は前回の重量を確認するために開いています。私もそうでした。でも記録が本当に効くのは、1回分ではなく4週間分をまとめて見たときです。
やり方は単純で、直近4週間のログを開いて、部位ごとに合計セット数を数えるだけ。5分で終わります。私が最初にやったとき、実際の数字はこうなっていました。
| 部位 | 4週間の合計セット数 | 週あたり | 判定 |
|---|---|---|---|
| 胸 | 24 | 6 | 十分 |
| 腕 | 12 | 3 | 少ないが優先度も低い |
| 背中 | 6 | 1.5 | 足りない |
| 肩(中部) | 3 | 0.75 | ほぼゼロ |
| 脚 | 8 | 2 | 足りない |
私は各部位を週あたり6〜10セットくらいを目安にしています。この数字を基準にすると、上の表は「胸だけが基準内で、あとは全部足りない」と一目でわかります。毎回のセッションではまったく気づけなかったことが、合計を出した瞬間に見えました。
この棚卸しを月に1回やるだけで、メニューを組み直す必要はほとんどなくなります。足りない部位を次の4週間で先頭に置き直す。それだけです。記録は自分を褒めるためではなく、自分の偏りを見つけるために取ると考えると、見返す動機も変わります。

解剖学とつなげると、トレーニングが実習の予習になる
これは医学生ならではの役得だと思っているのですが、筋トレは解剖学の実習と驚くほど相性がいいです。自分がどこに効かせようとしているかを考えるとき、自然と起始・停止・作用を思い出すことになるからです。
- 懸垂で「脇の下から背中の下部に効いている」と感じる → latissimus dorsi の走行と作用(内転・伸展・内旋)を体で確認している
- サイドレイズで前後の角度を変えると効き方が変わる → 三角筋が前部・中部・後部に分かれている理由がわかる
- ルーマニアンデッドリフトで太ももの裏が張る → ハムストリングスが股関節と膝関節をまたぐ二関節筋であることの実感
実習の前日に教科書で覚えた筋の名前と、自分がジムで感じている場所が一致した瞬間は、正直かなり気持ちがいいです。用語そのものの読み方や由来は筋肉のラテン語用語集にまとめてあります。
💡 語源メモ ― 筋肉の名前は「見た目そのまま」でできている
そもそも musculus(ムスクルス)=筋肉 は、ラテン語の mus(ネズミ)に 指小辞 -culus が付いた形で、直訳すると「小さなネズミ」です。力こぶを作ったときに皮膚の下を動く塊が、ネズミが潜って走るように見えたから、と言われています。
latissimus dorsi(ラティッシムス・ドルシ)=広背筋 は、latus(広い)の最上級 latissimus と、dorsum(背)の属格 dorsi で「背中の最も広いもの」。最上級がそのまま名前になっているので、この筋が背部で最大面積だと名前だけでわかります(この -issimus の作り方は大きさ・形を表すラテン語形容詞集に整理してあります)。
deltoideus(デルトイデウス)=三角筋 はギリシャ文字の Δ(デルタ)の形から、trapezius(トラペツィウス)=僧帽筋は左右を合わせた形が台形(trapezion)だから。biceps(ビツェプス)=上腕二頭筋は bi(2つの)+ caput(頭)で「頭が2つ」。自分が鍛えている場所の名前が全部「見た目の説明」だと気づくと、暗記がかなり楽になります。
🧠 理解度チェック
Q1. 週2回しか行けないなら、1回で全身を10種目やったほうが効率がいい?
Q2. RPE8で止めると筋肉は成長しない?
Q3. 試験週で25分しか取れない。行く意味はある?
Q4. 背中や脚が続かないのは、やる気の問題?
※ 見出しをタップすると続きが開きます。
おわりに
筋トレの設計で私が変えたのは、突き詰めると次の3つだけです。
- 平常時はRPE8で止める(限界まで行くのは月に数回だけ)
- 1回4種目・週2回に固定し、消えやすい部位を先頭に置く
- 月に1回、4週間分の部位別セット数を数えて偏りを直す
どれも「もっと頑張る」方向の工夫ではありません。むしろ全部、頑張りを減らす方向の調整です。医学部の6年間は、調子のいい月とまったく時間が取れない月が交互に来ます。その前提で組むなら、最高の1週間を作るより、最悪の1週間でもゼロにならない設計のほうが効きます。
食事とタイミングの話は別の記事に分けています。血糖の波を作らない食べ方は午後に集中が切れるのは意志ではなく食事、回復側の設計は医学生の睡眠設計が対応します。そして「そもそも1日のどこにトレーニングを置くか」については「勉強×筋トレ」両立ルーティンに書きました。この記事はメニューの中身の話、あちらは時間割の話なので、合わせて読むと組み立てやすいと思います。
※ この記事は私自身のトレーニング記録と実践に基づく個人的な工夫であり、運動処方や医学的な指導ではありません。RPEの目安も一般的な物差しとして紹介しているもので、適切な負荷は年齢・経験・体格・既往によって大きく変わります。痛みがある場合や、整形外科的な疾患・心疾患・呼吸器疾患などの持病がある場合は、自己判断で負荷を上げず、医療機関や有資格の指導者に相談してください。


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